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2012年10月27日 (土)

それでも東京国際映画祭を見捨てない:その(8)

昨日も授業と夜会の合間に、六本木で1本見た。「ワールド・シネマ」部門のマルコ・ベロッキオ新作『眠れる美女』。今年のベネチアのコンペ作品だが、ベネチアを出発する日の上映だったので見逃していた。

ベロッキオは、もちろんデビュー作の『ポケットの中の握り拳』(65)以来、着実に秀作、問題作を作ってきた監督だが、21世紀になって急におもしろさが倍増した監督だ。特に『夜よ、こんにちは』(03)と『愛の勝利を』(09)の20世紀の歴史を振り返る2本が良かった。

今回の作品は、舞台は現代。イタリアの新聞の評価は高かったが、日本の新聞では全く触れられていなかったため、ちょっと不安だった。しかし見終わって、さすがベロッキオならではの激情とサスペンス、そしてアイロニーとケレン味に溢れた秀作だった。

私は全く知らなかったが、2009年、イタリアでは17年間昏睡状態の少女、エルアーナ・エンガロの尊厳死をめぐって、大きな議論が巻き起こっていた。映画はこの事件を背景に3つの物語を描く。

1つは尊厳死の国会決議で、党を裏切るかどうか悩む議員(トニ・セルヴィッロ)とその娘マリア(アルヴァ・ロルヴァケル)。彼女はエルアーナが入院しているウーディネの病院に行き、反対運動をする中である男性と知り合う。議員の妻は病院で寝たきりで、夫に殺してくれと頼む。

もう1つは、医師(ピエル・ジョルジョ・ベロッキオ)が、自殺をしようとする浮浪者の女性(マヤ・サンサ)を何とか助けようとする話。あらゆる希望を失って死にたがっている女性を、無理に生き延びさせようとする医師の不思議な行動。

最後に、植物人間となった娘をキリスト教の力で何とか蘇らせようとするフランス人の元女優(イザベル・ユペール)とその夫と息子。元女優は献身的に看病するあまり、おかしくなっている。そして息子は演劇学校の受験をめざす。

それぞれに結論はない。議員がラストで娘と仲良くなりそうなのが唯一の希望だ。それにしても、トニ・セルヴィッロ、マヤ・サンサ、イザベル・ユペールなどの名優たちが繰り広げる満たされない感情のほとばしりに、見ていて息を飲んだ。ベッドに寝るマヤ・サンサが、浮浪者にしては美し過ぎ、黒い下着をつけていてセクシー過ぎるのが気にはなったけれど、これもたぶん演出だ。やはりベロッキオはおもしろい。

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» 「眠れる美女」第25回東京国際映画祭WORLD CINEMAアジアン・プレミア [ここなつ映画レビュー]
とても難しいテーマだと思いました。いや、今テーマに上ることが多い、「尊厳死」の問題を取り上げていて、それ自体は考え方や立場が異なる人々が様々に議論すれば良い事だと思います。しかし、ひとたびそこに宗教的な価値観が入ってくると、私にはさっぱり…もう、ギブアップな訳です。 昏睡状態に陥っていて、いわゆる脳死状態になっている少女を生かすべきか、生命維持装置を外して神の御許に送るべきか…。 イタリアで、17年間昏睡状態であった少女の尊厳死を巡って、政治・バチカン・家族の思い…等々さまざまな立場から... [続きを読む]

受信: 2012年11月12日 (月) 18時26分

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