« 『ファースト・ポジション』に不覚の涙 | トップページ | 天井画まで持ってきていいのか »

2012年10月 4日 (木)

久々のドイツ映画の傑作『東ベルリンから来た女』

最近フランス映画のことばかり書いているが、最近のドイツ映画も実は優れた監督が何人かいる。とりわけ『素粒子』『アグネスと彼の兄弟』のオスカー・レーラーと並ぶ“ベルリン派”の代表格、クリスティアン・ペッツォルトは抜きんでている。

彼の映画は、私自身が「ドイツ映画祭」で『幻影』(05)や『イェッラ』(07)を上映したので、愛着があった。主人公はいつも心に何かを秘めた女性で、謎めいた行動の中から、不思議なドラマが生まれてくる。静かで硬質な画面から湧き上がる魂の叫び。

来年正月第二弾で公開されるペッツォルトの新作『東ベルリンから来た女』も、同じように孤独な女性が主人公だ。主演は『イェッラ』と同じく、ニーナ・ホス。何かの理由で東ベルリンの大病院から田舎に異動になった謎の女医バルバラを演じる。

全体に流れる空気がたまらない。バルバラが紺のスーツに短いスカート、赤い靴で自転車に乗って、自宅から病院に行くシーンだけで、ただならぬものを感じてしまう。ただでさえ殺風景なのに、いつも強い風が吹いている。電車に乗って、逃げ出すためのお金を受け取りに行くが、いつの間にかスパイがつきまとう。

バルバラが密かに恋人に会うシーンもいい。野原で突然会ったり、外国人ホテルに窓から飛び込んだり。ニーナ・ホスの裸が見えないのが残念だったが、だからいいのかもしれない。田舎の医師アンドレと次第に心が打ち解けて、愛情のようなものが生まれ始める瞬間もいい。

そして物語は脱出に向けて、だんだんとサスペンスの度合いを強めてゆく。出発の日の夜中のカメラの美しさは尋常ではない。まるで白黒の表現主義映画のようだ。バルバラが海にたどり着くと、激しい波の中からボートが。これではまるでムルナウの『サンライズ』ではないか。そして予想外の結末。

まだドイツが東西に分かれていた時代を描いたものだが、監視社会の中での孤独な魂の放浪は、今の社会のあちこちにあるものだろう。

|

« 『ファースト・ポジション』に不覚の涙 | トップページ | 天井画まで持ってきていいのか »

映画」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/55809671

この記事へのトラックバック一覧です: 久々のドイツ映画の傑作『東ベルリンから来た女』:

« 『ファースト・ポジション』に不覚の涙 | トップページ | 天井画まで持ってきていいのか »