なんでもできるアン・リー
アン・リーという監督は、どんな題材でもおもしろい映画に仕上げる。かつては『恋人たちの食卓』(94)のように中国人社会を描いていたが、いつの間にかアメリカ人が主人公になり、『ブロークバック・マウンテン』(05)では2人のゲイのカウボーイの悲痛な恋愛を描いた。
前作の『ウッド・ストックがやってくる』(09)は、歴史的なフェスティバルをドキュメンタリータッチで何とも楽しく見せてくれた。
そして1月25日公開の新作『ライフ・オブ・パイ』は、何と太平洋を小さなボートで虎と共に漂流する16歳の少年の話だ。これまでのアン・リー映画には濃密な物語があったが、今回のような単純なストーリーをどう仕上げるか興味があった。
まず、少年が成人になって過去のことを第三者に語る形式にして、物語の枠を作っている。少年は最終的に助かることがわかっているから、単純なサスペンスではなくなる。
そして前半に、ボートに乗るまでのインドでの少年時代をたっぷり描いて、動物園を経営する家族の楽しい生活を見せた。少年と動物の親和性の高さが伝わってくる作りだ。
しかしながら、洋上のトラとの生活を、人間と動物の愛情物語にはしていない。トラの考えはあくまでわからず、コミュニケーションは最後の別れのシーンまで成り立たない。
そのぶん、嵐の厳しさや魚の群れ、流れ着いた島のミーアキャットなど、3Dとデジタル技術を駆使して、溜息の出るような映像を作り上げた。2時間を超す長さなのに、映像に目を奪われているうちにあっという間に過ぎてしまう。
けれど、今回の映画には、いつもの濃厚な人間味があまり感じられない。おもしろいのに、なぜか心が動かない。完成度の高い人工物といったところ。映画は今後このような方向に進むのかもしれないとふと思った。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)
- 1年ぶりの海外で考えたこと:その(5)飛行機の映画(2026.10.03)


コメント