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2012年11月21日 (水)

なんでもできるアン・リー

アン・リーという監督は、どんな題材でもおもしろい映画に仕上げる。かつては『恋人たちの食卓』(94)のように中国人社会を描いていたが、いつの間にかアメリカ人が主人公になり、『ブロークバック・マウンテン』(05)では2人のゲイのカウボーイの悲痛な恋愛を描いた。

前作の『ウッド・ストックがやってくる』(09)は、歴史的なフェスティバルをドキュメンタリータッチで何とも楽しく見せてくれた。

そして1月25日公開の新作『ライフ・オブ・パイ』は、何と太平洋を小さなボートで虎と共に漂流する16歳の少年の話だ。これまでのアン・リー映画には濃密な物語があったが、今回のような単純なストーリーをどう仕上げるか興味があった。

まず、少年が成人になって過去のことを第三者に語る形式にして、物語の枠を作っている。少年は最終的に助かることがわかっているから、単純なサスペンスではなくなる。

そして前半に、ボートに乗るまでのインドでの少年時代をたっぷり描いて、動物園を経営する家族の楽しい生活を見せた。少年と動物の親和性の高さが伝わってくる作りだ。

しかしながら、洋上のトラとの生活を、人間と動物の愛情物語にはしていない。トラの考えはあくまでわからず、コミュニケーションは最後の別れのシーンまで成り立たない。

そのぶん、嵐の厳しさや魚の群れ、流れ着いた島のミーアキャットなど、3Dとデジタル技術を駆使して、溜息の出るような映像を作り上げた。2時間を超す長さなのに、映像に目を奪われているうちにあっという間に過ぎてしまう。

けれど、今回の映画には、いつもの濃厚な人間味があまり感じられない。おもしろいのに、なぜか心が動かない。完成度の高い人工物といったところ。映画は今後このような方向に進むのかもしれないとふと思った。

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