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2012年12月13日 (木)

『ふがいない僕は空を見た』に驚く

いや、驚いた。ようやく見た『ふがいない僕は空を見た』のことだ。タナダユキ監督は『百万円と苦虫女』がなかなか良かったが、これほどの監督とは思わなかった。「性と生」をこれほど正面から、大胆にかつ繊細に描いた映画はめったにない。

物語は、東京の郊外を舞台に高校生と人妻のセックスを中心に、友人たちとのやりとりを描く。それだけなのに、現代の郊外の抱えるさまざまな問題、とりわけ高校教育や老人介護、体外受精、出産などの大問題にどんどん迫ってゆく。

この大づかみな感覚にしびれた。主婦を演じる田畑智子と高校生役の永山絢斗の愛は、ストレートでどこまでもせつない。「こんな幸せなセックスで子供が生まれたらどんなに幸せだろう」という意味の字幕がふいに出る。全体で10回くらい出てくるこうした字幕の、とぼけたまじめさといったら。

物語も大ざっぱだ。本来なら高校生の貧しい友人の話はないほうが、まとまりがいいかもしれない。しかしまるで人生のように、物語は中心の2人からはずれ、また戻ってくる。あるいは前半で同じ物語が別の視点から繰り返されるところも、いま一つしまりが悪いが、それがまたいい。

全体のやるせなさを、原田美枝子の凛とした人物像が救っている。彼女が控えめながら登場人物たちの軸にいることで、いささか冗漫な物語に一本の筋が通ってくる。

川が流れる東京郊外の風景もせつない。カメラはその雰囲気をきちんととらえているが、あまり美的に流れることもない。つまり、是枝裕和や西川美和のような緻密な計算がない。

こんな大きさを感じさせる映画は、『ヘヴンズ ストーリー』以来かもしれない。トロント国際映画祭に出たと言うが、絶対に海外でも評価される作品だと思う。そもそも東京国際映画祭で世界に自信を持って披露すべきだった。

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» ふがいない僕は空を見た [とりあえず、コメントです]
窪美澄著の同名小説をタナダユキ監督が映画化した青春群像劇です。 うっかりしていたら上映が終わってしまいそうと、原作は未読のまま慌ててチャレンジしてみました。 予想以上にディープでやるせない想いが交錯する、胸にドーンと来るような物語でした。 ... [続きを読む]

受信: 2012年12月15日 (土) 18時23分

» タナダユキ[監督]『ふがいない僕は空を見た』(2012年)を観た。 [ラジオ批評ブログ――僕のラジオに手を出すな!]
○タナダユキ[監督]『ふがいない僕は空を見た』(2012年)を観た。 タナダユキ [続きを読む]

受信: 2013年1月 5日 (土) 09時10分

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