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2012年12月23日 (日)

『ジャズ・シンガー』の謎

1927年の『ジャズ・シンガー』と言えば、トーキー映画最初の作品として名高い。私はこの映画を1986年に16ミリで見た記憶があるが(初めて自分で映写したので覚えている)、中身を全く忘れていた。黒塗りの白人が両親の前でジャズを歌って感動させる映画だと思っていた。

ところが今回DVDで見たら、これは何よりもユダヤ社会の映画だった。ニューヨークで代々祭司長Cantorの家に生まれた少年がジャズに目覚め、父親の怒りを買う。家を出た少年は、ジャズ歌手になるべく訓練を重ねる。ジェキー・ラビノヴィッツJakie Rabinovitzといういかにもユダヤの名前から、ジャック・ロビンJack Robinに改名して、デビューを果たす。

そして待望のニューヨーク公演が近づき、息子は実家を訪ねる。母は涙を流して喜ぶが、ジャズを歌う姿を見た父は怒る。少年は「劇場で歌うのはシナゴーグで歌うのと同じように大事なことだよ」と訴えるが。

公演の日、父が危篤だという知らせを持って母と叔父が劇場に現れる。父に会い、贖罪の儀式でイスラエルの歌「コル・ニドレ」Kol Nidreを歌ってくれと懇願する。劇場主は「舞台に穴は空けられない」The show must go onと言う。

私の記憶では息子は舞台を優先し、それを聞いた両親が感動するというものだが、実際は少年は舞台を捨てて父親に会いに行き、贖罪の式で歌う。そして数年後、劇場でヒットを飛ばしている様子が映し出されるというものだ。

つまり、舞台に穴をあけてユダヤ社会を優先する話だったのだ。このようにユダヤ人を扱った映画は当時ほかにもあったのだろうか。そのうえ、白人が黒塗りで黒人を演じてジャズを歌うのだから、民族的には極めて複雑な世界だ。

グリフィスの『国民の創生』(1915)は、白人至上主義団体KKKが黒人の横暴を収めるという結末が物議をかもしたし、同年のデミルの『チート』は早川雪洲演じる日本人が残酷すぎるというので、日本では国賊映画になった。

映画史上有名な作品には、実は民族的問題が潜んでいるものが多いような気がする。

もう一つ。The show must go onは有名な言葉だが、これはこの映画以前にあったのか。「お楽しみはこれからだ」You haven't heard nothing yetという言葉も有名だが、これもこの映画からなのか。

謎は深まる一方だ。私だけが知らないのかもしれないが。 初期映画研究で有名なイェール大学教授のチャールズ・マッサー氏は1年ほど前の早大での講演でこのことに触れていたはずが、もう一度聞きたい。

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