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2012年12月27日 (木)

ケン・ローチの希望

たぶん私にとって年末最後の試写で、4月13日公開のケン・ローチ監督『天使の分け前』を見た。これが年末にふさわしいというか、最後に希望を与えてくれる映画で、見終わって心の中に火が灯ったような気がした。

もちろんケン・ローチだから、例によって英国の貧しい人々が描かれる。今回はスコットランドのグラスゴーに住む10代後半の仕事のない若者たちが主人公だ。冒頭で彼らの裁判のシーンが写される。顔つきからして、本当に救いのないゴロツキばかり。

主人公のロビーは、恋人との間でもうすぐ子供が生まれるという理由で、刑務所行きの代わりに社会奉仕活動を命じられる。まじめにやろうとするロビーだが、昔からの宿敵は付きまとうし、恋人の父親からはお金をやるから街を出てゆけと言われる。

そんな八方ふさがりのロビーだが、社会奉仕活動の指導者が、スコッチの蒸留所見学に連れ出したことから、新しい情熱の対象が生まれる。そしてそれが大きな運命の転機をもたらすのだが、そこに至る過程が真っ当でないのがいい。

金がなく、仕事がなく、犯罪歴のある若者がやれることは限られている。だから主人公たちはあくまで自分たちの流儀で、チャンスをつかもうとする。やり方はどうあれ、とにかくスタート地点に立たせることが大事なのだという、ケン・ローチの祈りのような考えが伝わってくる。

撮影はロング・ショットを多用し、本当に大事なところだけ、ぐっとアップになる。そこで生々しい、いい表情が捉えられる。デジタルでなくフィルムを使い、カメラは1台でやたらに動かさない古典的な撮影が、作品の内容にぴったりのある種の倫理を表わしている。

ケン・ローチは『エリックを探して』(09)で、希望のない中年にファンタジーを使って、珍しく希望の持てる結末を描いたが、今回は正真正銘のリアルな希望だ。私は大学で就活に何度も失敗して傷つく学生を見ているので、このラストに泣いてしまった。

この映画は銀座テアトルシネマのクロージングという。あのホテルごと無くなってしまうなんて。いくつもの思い出が蘇る。

もう一つ思い出。この映画で映されるエジンバラの街は1992年にエジンバラ演劇祭の時に行ったので、懐かしかった。

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