ムンジウの現代性
何とも妙な映画を見た。3月16日に公開されるクリスティアン・ムンジウ監督の『汚れなき祈り』。このルーマニアの監督は『4カ月、3週と2日』(07)がカンヌのパルム・ドールを取って評判だったが、見ていなかった。この新作もカンヌの脚本賞と主演女優賞ということで期待して見に行った。
ルーマニアで実際に起こった「悪魔憑き事件」をもとにしているというが、出だしは極めて普通だ。アリーナとヴォイキツァの2人の女友達が駅で再会し、抱き合う。そしてヴォイキツァが暮らす修道院に向かう。
修道院といっても、丘の上に立ったバラックに近く、そこで牧師と女たちが寄り添うように質素な暮らしをしている。ドイツに住むアリーナは、友人を連れだして一緒にドイツに行きたいが、ヴォイキツァにその意思はない。
アリーナの思いはいささか同性愛的に見えるが、どうということのない、よくある話だ。彼女は自分の思うようにならないと、修道院のみんなに悪態をつきはじめる。それからは病院に連れて行かれたり、兄に会ったり、養父母の家に行ったり。
ここまではドキュメンタリータッチで撮った田舎の貧乏な話だが、教会に戻ってきてからは急展開する。「機密を行う」と称して、牧師はある儀式を行い、それはとんでもない結末を招く。
見終わって、世界のどこにでもある物語だと気がつき、その現代的テーマの巧みな展開に改めて感心した。孤立した宗教的集団が現代社会とぶつかって生まれた悲劇という意味では、オウム事件だって連合赤軍だって似たようなものだ。雪の中の事件だから、この2つを思い浮かべたのかもしれない。
現代社会における貧困と宗教というテーマは、21世紀になっていよいよアクチュアルになってきた。その意味で一見古めかしいこの映画は、世界の最先端にある。最後の、車の窓から見た風景が忘れられない。
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