フランケンシュタインの原作を読む
正月休みに「ユニバーサル・モンスター・コレクション」(全8巻!)を買って、『フランケンシュタイン』(31)や『フランケンシュタインの花嫁』(35)などを見ていたら、その原作が簡単に手に入ることがわかった。読売新聞夕刊に斎藤美奈子氏が「名作うしろ読み」で紹介していた。
小説『フランケンシュタイン』は映画のちょうど百年前、1831年に書かれたものだが、書いたのは英国のメアリー・シェリーという女性。読んでみると、ホラーとは程遠い、格調高いロマン主義的な小説だった。
まず、小説は三重構造だ。世界を探検するウォルトン船長が姉に書く手紙に始まり、その中から彼が出会ったヴィクター・フランケンシュタインの回想が出てくる。ちなみに映画を見た人はわかる通り、フランケンシュタインという名前は、怪物を作りだした博士の名前で、怪物は映画においても小説においても名前さえない。
フランケンシュタインの回想で、彼がスイスの大学で実験を繰り返すうちに墓場や病院から集めた身体の一部を集めて怪物を作りだしてしまったことが語られる。驚くのはその後に、怪物の長い長い独白(文庫で70ページ)が現れることだ。
怪物は自分の外観が人間に恐怖を与えることを知って、1人で隠れて暮らす。そのうちに見よう見まねでフランス語を学んでゆく。そのうちフランケンシュタインが自分を作りだしたことを知り、探し出して、自分の妻を作ってくれと頼む。女がいれば、ヨーロッパを去って南米で暮らすから迷惑はかけないと(何というヨーロッパ中心主義!)。
フランケンシュタインは怪物の伴侶を作ろうとするが、これで子孫ができたら大変なことになると中断する。怒った怪物はフランケンシュタインが結婚した夜に妻を殺す。フランケンシュタインは苦悩して死んでしまうが、友人のウォルトン船長に自分が死んだら怪物を殺してくれと頼む。
ウォルトンの前に現れた怪物は、「おれをつくった男は死んだ。そのうえおれがいなくなれば、二人の記憶はあっと言う間に消えるだろう」と自ら死んでゆく。何とも哀しい結末。
これがどうしてあんなホラー映画になったのか。光文社文庫のあとがきには、訳者の小林章夫氏が、19世紀においてこの小説が多くの絵画やイラストのテーマになっていたことが書かれている。ボリス・カーロフ演じる映画の怪物の原型は、それらの図像にあるに違いない。
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