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2013年2月27日 (水)

『君と歩く世界』の描く激情

ジャック・オーディヤールは、人間のほとばしる激情をそのまま映像にする。『預言者』がそうだったが、見ていて肉体的に痛い。そのうえ、物語はわかりにくい。そんな彼の新作が、シャチの女性調教師が両足を失った話と聞いて、ちょっと心配した。

4月6日公開の『君と歩く世界』は、邦題もメジャー感溢れているし、主演はマリオン・コティヤール。チラシもまるで『グランブルー』みたいで、「光射す方へ/一歩ずつ/ふたりで」「ふたたび力強く歩み始める彼女の姿が胸を打つ、きらめく愛の感動作」と書かれている。

確かに「愛の感動作」だった。しかし同じコティヤールでも『ピアフ』とはだいぶ違う。思わせぶりの盛り上げは全くないのに、ちょっとした動作やセリフに少しずつ心が動かされていった。

『グランブルー』のように、シャチとの心の交流を描くわけではない。そこにあるのは、事故で人生の意味を失った暗い女性と、乱暴者として育ち、愛の表現を知らない武骨な男の出会いだけだ。

最初は子供を連れて南仏に向かう男アリが写る。オディヤールらしく説明がなく、映像はどんどん飛ぶ。コティヤール演じるステファニーとの出会いもさらりと描く。ステファニーに事故が起き、連絡を受けたアリは、海岸に連れ出す。このあたりから、少しずつ2人の心が近づいてくる。

ほとんどメークなしで出てくるコティヤールがいい。絶望の淵からだんだんと表情に明るさが射してくる。アリは警備員をやったり、賭け事の決闘試合に出たりするが、自分の子供をまともに育てることさえできない。その暴力的な男の持つ不思議な純粋さに、ステファニーも観客も惹かれてゆく。

普通に言えば説明不足だし、特にアリの心理は理解しがたいが、それでもこの2人を応援したくなる。それは、人間の不可思議な激情を生々しく表現するこの監督の演出にはまってしまうからだろう。ラストのワルシャワのシェラトン・ホテルもよくわからないが、なぜか良かった。

舞台は南仏のアンティーブ。きらめく太陽が映画にぴったりだ。そういえば、1985年のカンヌに行った時、アンティーブ駅で降りてピカソ美術館に行ったことを思い出した。

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コメント

Amazonにある『預言者』のDVDソフトのレビューの中で,元店長という方のレビューが『預言者』のよく分からない部分を解説してました。
面白いレビューだったので御一読をお勧めします。

投稿: | 2013年2月27日 (水) 09時26分

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» ジャック・オディアール監督インタビュー:映画「君と歩く世界」(4月6日より公開中)について【1/2】 [INTRO]
両脚を失った女性の再生と希望を描いた映画『君と歩く世界』が、現在全国で公開されている。フランスの名匠として日本でもファンが多いジャック・オディアール監督に、作品プロモーションで来日した際にお話を伺った。【Page1/2】2013年4月6日(土)より、新宿ピカデリー他にて全国公開中/ 4月16日(金)~26日(金)、早稲田松竹にてオディアール監督特集上映開催... [続きを読む]

受信: 2013年4月12日 (金) 20時55分

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