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2013年2月14日 (木)

お洒落をしてみたくなるドキュメンタリー

私はニューヨークにも一度しか行ったことがないし、ファッションとはおよそ縁がないけれど、5月18日公開の『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を見て、とびきり幸せな気分になった。ビル・カニンガムは、「ニューヨーク・タイムス」紙のファッション写真を撮るカメラマン。

彼がカメラに収めるのは、モデルが練り歩くいわゆるファッション・ショーよりも、ニューヨークの街角の普通の人々のお洒落(「On the Street」というコラム用)や夜毎に開かれるパーティに集う人々(「Evening Hours」というコラム用)が中心だ。

毎日、青い上着を着てカメラを首から下げて、自転車でニューヨークをうろつく。これだというお洒落を見たら、パチリ。全く普通の人々も、「ヴォーグ」誌の名物編集長アナ・ウィンターのような有名人も同じ扱い。いつもきょろきょろして、「この靴はすごい」とパチリ。

夜のパーティの招待状はたくさん来るが、優先するのは、チャリティ。みんなが楽しく飲み食いする中を、ビルは水一杯飲まず、写真を撮り終えると次の会場へ自転車を漕ぐ。

住むのは、かつて有名人が大勢住んだカーネギーホールの上のアパート。そこにすべてのネガを整理したキャビネに埋もれるように暮らしている。食事はすべて外食。

食事には全く興味がないと言う。夜のパーティに行く前に「ニューヨーク・タイムズ」のオフィスでプラスチック容器に入ったサラダを食べて腹ごしらえ。パリ・コレでも、セルフ・サービスの店でサンドイッチをほうばり、撮影スタッフに「安い店ばかりでごめんね」。

デジタルなんて論外で、ひたすらフィルムで撮り、若いスタッフがスキャンしてレイアウトをする。その横から「もっと右」「この写真を大きく」と注文ばかり付ける。

終盤、いつも笑顔できさくに話すビルが、一度だけ下を向いて沈黙する瞬間がある。「どうして毎日曜日教会に行くのですか」という質問を受けた時だ。その答えは映画を見てもらうしかないが、ふと、ビルが禁欲的な求道者に見えてきた。

映画を見終えたら、私もちょっとお洒落をしてみよう、という気分になった。やはりドキュメンタリーは、対象が抜群に魅力的だと間違いなくおもしろい。『ハーブ&ドロシー』のように火が点くかもしれない。

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