クールな受験生たち
大学の教員になっていつの間にか4年近くになり、入試も4回目になる。実は毎年入試のたびにぼんやり考えていたことがあったが、WEBRONZAで金惠京氏の「受験から見た日本と韓国――情、家族、社会」(後半有料)を読んで、ピンと来た。
一言で言うと、受験生に「熱がない」というものだ。何ともクールで、始まる前も終わってからも、みんな騒がない。自分の時は、始まる前は本当に緊張して顔を赤くしていたし、1時間は早く着いた。それから終了後は友人と「ヤッター!」「終ったー!」と叫んだものだが。
金氏は韓国の大学から日本の大学に留学し、さらにアメリカ留学を経て今は明治大学で教えている。彼女は日本の受験を見て、「様々な「物足りなさ」を感じさせた。愛情や思いやりが奔流のように渦巻く韓国の受験に比べると、のっぺりとした事象のように思われたのである」。
「のっぺり」というのは何となく私も感じていたことだ。もちろん韓国では「試験当日、遅刻しそうな受験生に対してパトカーや白バイすら協力を買って出るし、航空機の航行の自粛、通勤時間の変更などが行われる」というから、日本の比ではない。
金氏はそのことを、日本がバブル期以降、社会の絆や親子の情が薄くなったのではと言うが、それだけではない気がする。そこには、どんな大学を出ても、今や何も保障されないという日本社会の事情があるのではないか。この国では、大学も会社も政治ももはや信用できない。
それはある意味で社会の退廃かもしれないが、現在の日本で少なくとも大学名があまり意味を持たないというのは、むしろいいことではないか。
やる気のなさそうに見える受験生たちは、実はクールに世の中を見ているのだろう。クールと言えば、私は芸術系の大学に勤めているが、今年はどこの芸術系大学も志願者が減ったらしい。アーティストやクリエイターを目指しても食えない、とクールに構えているのか。
それにしても、韓国では遅刻しそうな受験生をパトカーが乗せるなんて、日本ではいつの時代にもなかったことだ。果たして韓国も近い将来クールになるのだろうか。
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