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2013年2月 9日 (土)

エル・グレコの楽しさ

大阪での開催後、上野の東京都美術館で4月7日まで開かれている「エル・グレコ展」を見た。金曜の夜間開館で、夜7時頃に着いて8時の閉館近くまで見た。夜間開館というのは昔はガラガラだったが、最近は根付いたのか、それなりに観客がいた。それも客層が品がいい。

やはり個展はいい。その画家の生涯をたどりながら、そのスタイルの変遷を見ていると楽しくなる。エル・グレコの場合はギリシャで生まれて、ベネチアからローマへ、そしてスペインのトレドへ行ったのだからなおさらだ。

時代は16世紀後半から17世紀前半。ベラスケスやレンブラント、フェルメールといった17世紀の巨匠たちが活躍する少し前だ。その絵は独特で、一度見たら記憶に残る。簡単に言うと、細長い人物たちが天に向かって祈ったり、叫んだりしている姿が多い。

絵の背景には黒が多用され、肉体や衣装にも黒を使ってダイナミックに動きが表現されてゆく。何点も見ていると、天上に登ってゆく感じが伝染しそうだ。大きな絵が多いので、飲み込まれそうになる。

肖像画もあるが、その多くは聖書を題材にした宗教画だ。だから頭の中では先日聞いたバッハの「マタイ受難曲」がめぐり、それから12月に見たアリス・ギイ監督の『キリストの生涯』も時おり浮かび上がった。特に《キリストの復活》を見た時は、周りの人々の衝撃のダイナミックな描写は、アリス・ギイ作品のラスト・シーンを彷彿とさせた。

考えてみたら、エル・グレコの絵は、さまざまな視点から描かれたものが組み合わさっている。ここはカメラを上に向け、ここはクロース・アップで、あるいは右上に想像した聖母を描いたり。さらに右下に髑髏やヘビを加えたり。一枚の絵の中が、まるで映画のモンタージュのようにできている。

映画もテレビもない当時、教会でこうした宗教画を見て、人々は恐れおののき、そして天上に憧れて、宗教心を高めていったのだろう。

バッハと同時代かと思ったが、調べてみるとむしろバロック初期のモンテヴェルディ。確かにバッハの荘厳な構築された世界よりは、モンテヴェルディの軽やかでキリストの生涯そのものに入り込む感じに近い。

日本だと、安土桃山から江戸時代。狩野永徳や長谷川等伯の時代だ。そう考えると、何だかわからなくなる。等伯の方が上だろうと思ったり。

展示点数は51点と美術館の広さに比して少ないが、欧米各地から作品を集めた労作とも言える展覧会だ。特に最後の3mを超す大作《無原罪のお祈り》はもう一度見に行きたい。日本でこの規模の展覧会はもうないだろうから。

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