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2013年3月12日 (火)

それでもワン・ビン

5月25日に公開される中国のワン・ビン(王兵)監督のドキュメンタリー『三姉妹~雲南の子』を見た。ワン・ビンと言えば9時間のドキュメンタリー『鉄西区』で世界を驚かせ、劇映画『無言歌』で中国現代史の闇に迫った監督だ。期待して見に行った。

最初に暗闇の中から三人の少女が寄り添うように現れた時、その神々しさに最近見たラファエロのルネサンス絵画を思い出した。それから2時間半、映画は貧困そのものを生きる三姉妹を中心に、雲南省の山奥の人々を淡々と描く。

途中で出稼ぎの父親が帰って来ると、今度は下の娘二人を連れて出かけてしまう。残された長女インインは祖父と暮らし、学校に行ったり、友人と馬糞を拾ったり。馬、犬、鶏、羊、ヤギ、豚とさまざまな動物を飼っているが、人間の暮らしもかなり動物に近い。寂しさを堪えて1人で生きるインインが物語の中心かなと思うと、宴が始まり、大人たちが農村復興や医療保険の不条理について語る。

父親は子供二人に子守りの女とその娘を連れて帰って来る。父親も子供もみんな少し顔つきが変わっている。父親の働く姿とはしゃぐ子供たち。

結局何も起こらないし、物語の焦点さえも定まっていない。だから『無言歌』のような衝撃はないが、それでもさすがワン・ビンで、映像の強度は半端ではない。農村の土や動物の匂いや風の音、ジャガイモや麺の食感までもがヒリヒリと伝わってくる。全く長さを感じなかった。

ちょうど前日に『草原の椅子』で貧しいパキスタンの奥地の人々を見たが、ここで描かれている貧困はあんな薄っぺらいものではない。叔母から食べ物を渡さないと言われて家を飛び出し、1人で歩いて草原で悔しさを噛みしめたり、祖父に「勉強なんかして」と罵られて佇んだり、暗闇の中で1人で黙々とジャガイモを貪るインインの表情が焼き付いて離れない。

映画を見終わって、なぜか懐かしさを感じた。考えてみたら、私が小さい頃は日本にもこんな貧困がまだ少し残っていた。母方の熊本の実家は山の中で、それこそ犬、鶏、牛、馬と暮らしていた。家の中にはこの映画のような暗闇があり、祖母は醤油や味噌を二階で作っていた。隣りの家まで何百メートルもあって、この映画のような風景もあった。

現代の日本人にとって、いろいろな意味で必見の映画だと思う。

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» ワン・ビン(王兵)監督インタビュー:映画「三姉妹~雲南の子」(5月25日より公開)について【1/2】 [INTRO]
2012年ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリ、ナント三大陸映画祭で最高賞&観客賞ダブル受賞をした映画「三姉妹~雲南の子」が日本で公開されるのに合わせて来日したワン・ビン(王兵)監督に作品についてお話を伺った。【Page1/2】 2013年5月25日(土)より、 シアター・イメージフォーラム... [続きを読む]

受信: 2013年5月11日 (土) 18時59分

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