『ハピネス』が描く「ママ友」の世界
最近読んだ本で最もページが進んだのが、桐野夏生の新作『ハピネス』。江東区にできた高級タワーマンション(タワマン)に住むママたちの話だが、私が全く知しらない「ママ友」の世界に頭がくらくらしながら、一気に読んだ。
主人公の有紗は、娘の花奈と二人で江東区のタワマンに住む。ららぽーとなどが出てくるので豊洲が舞台だろう。タワマンに住む多くの住民は分譲の購入者で、とりわけ西棟(イーストタワー)が景色が良くて高いらしい。有紗は東棟に賃貸で住んでいる。
ここで有紗は、「有紗ママ」と子供の名前で呼び合う「ママ友」たちと知り合う。何とか子供を一流の幼稚園に入れようと思いながらも、それを隠しながら楽しさを装っておしゃべりをするママ友たちの社交。
それだけなのだが、この本が手放せなくなるのは、虚構のママ友の世界から、読者が新しい驚愕の事実をどんどん知ってゆくという仕掛けがなされているからだ。まず、途中から有紗の夫はアメリカに駐在する会社員で、何と有紗と別れたがっていることがわかる。
さらに有紗と仲良くなる美雨ママは、なぜかタワマンではない近くのマンションに住んでタワマンのママ友の会に加わっているが、ある日ママ友の中で最も美人で金持ちのいぶママの夫と不倫している事実を話す。
有紗は美雨ママに自分の秘密も話して仲良くなるが、有紗にはさらに言えない過去があった。それはかつて新潟で結婚して子供までいたが、夫の暴力に耐えられず逃げ出して東京に来たという事実だ。
後半、夫の両親がやってきて娘をいったん預かったり、夫が急に帰国したりと急展開する。美雨ママはいぶママの夫に別れを告げられ、いぶママはタワマンから引っ越す。
こういったえげつない話を小出しにしながら嫌にならないのは、有紗も含めて本当に悪い人はどこにもいないという設定。とりわけ娘は限りなく可愛く描かれ、夫の両親が本当に親切なので救われる。最後には、夫までまともな人間として描かれている。
そんなこんなであっという間に読み終えたが、いつもの桐野ワールドに比べたらずいぶん物足りない。後でわかったが、『VERY』の連載だったらしい。その小出しのサスペンスとマイルド具合は、女性誌の連載のための仕掛けだった。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『目まいのする散歩』を読んで(2024.11.01)
- イスタンブール残像:その(5)(2024.10.06)
- イスタンブール残像:その(4)(2024.10.02)
- イスタンブール残像:その(3)(2024.09.26)
- イスタンブール残像:その(2)(2024.09.24)
コメント