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2013年3月14日 (木)

『私にふさわしいホテル』に笑うが

ここで朝井リュウの直木賞受賞作『何者』について書いたら、某映画会社に勤める友人から、朝井氏が本名で出てくる小説があると勧められたのが、柚木麻子の『私にふさわしいホテル』。オビには書評家の豊崎由美が、「ユズキ、直木賞あきらめたってよ」と書いている。

いやはや、とんでもない本だ。主人公は文学賞を取ってデビューはしたが、いま一つぱっとしない30歳の中島加代子。彼女が何とかメジャーな作家になるために、編集者や大御所の作家を相手に権謀術策を繰り広げる物語だ。

中島が取ったのは実用書の中堅出版社が始めたばかりの「プーアール賞」で、同時受賞は売れなくなったアイドル歌手だった。つまりその歌手のために作られた賞。彼女は「相田大樹」というペンネームを付ける。書店員の経験を生かして、「あ」で始まること、「木」が入ると売れること、性別があいまいな名前は幅広い層にアピールするなどから選んだ。これなんか、桜庭一樹へのあてつけだろう。

彼女は山の上ホテル、つまり本の題名であり、第一章のタイトルでもある「私にふさわしいホテル」で大御所をだまして、『小説ばるす』の読み切り小説枠をゲットする。「すばる」みたいだが、出している出版社は「文鋭社」で紀尾井町にあるというから集英社ではなくて文春か。60代の大御所の名前は東十条宗徳だが、これは誰を指すのだろう。

読みながらそんなことばかりを考えた。小説自体の展開はたわいない。相田大樹を名乗る中島加代子は有森樹里とさらに改名して「小説ばるす新人賞」を取る。これが第2章の「私にふさわしいデビュー」。

以下、「わたしにふさわしいワイン」「わたしにふさわしい聖夜」「わたしにふさわしいトロフィー」と続く。そのたびに主人公はあらゆるやり方で文壇すごろくを上がる。帝国ホテルやパークハイアットでのパーティでの会話や暗躍が入る。そして文鋭社主催の鮫島文学賞の受賞に至る。これは直木賞か。

ラストは自分の小説が映画化されてカンヌ映画祭に出る場面。いやはや。内容は文壇暴露話で、文体は大衆小説。どんどん読めたが、何だかなあ。筆者の略歴を見たら1981年生まれで、立教大仏文卒。2010年にオール読物新人賞。何だすべて自分の暴露だったのか。

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