村上龍の恥ずかしさとうまさ
最近、小説づいている。たぶんこの2カ月ほど大学で採点や卒論審査や入試などで、ストレスの多い日々を送っているからかもしれない。『何者』に続いて、村上龍の『55歳からのハローライフ』を読んだ。
村上龍という人はなぜか恥ずかしい。『限りなく透明に近いブルー』が芥川賞を取った時、九州の中学生の私はすぐに単行本を買った。それ以来、すべてではないがかなり読んでいる。出たがりの言動も含めて、この小説家は「田舎出身の文学成り上がり兄ちゃん」のような気がして恥ずかしい。同じ九州出身のせいかもしれないが。
『55歳からのハローライフ』も、また同様にどこか恥ずかしい。村上龍とはかけ離れた生活をしている60前後の迷える同世代を、見てきたように巧みに描いているからだ。その通俗性ゆえに読みやすく、どんどん読んでしまう。
描かれているのは5つの物語。
「結婚相談所」は、定年退職して家に居続ける夫と別れて、結婚相談所に通う女性を描く。
「空を飛ぶ夢をもう一度」は、出版社をリストラされた54歳の男が、警備員の仕事をしながら、ホームレスになたt小学校の時の友人に出会う話。
「キャンピングカー」は、早期退職をした営業畑の男が、キャンピングカーで日本中を旅しようと妻に提案して嫌がられる話。
「ペットロス」は、広告代理店を定年退職した男の妻が、犬を飼うことにのめりこみ、その死に苦しむという展開。
「トラベルヘルパー」は、仕事が少なくなった60過ぎのトラックの運転手が、古本屋で会った古風の女性を好きになる話。
いずれも、60前後の仕事を失った男と、そばにいる女が描かれる。私には女性を主人公にした「結婚相談所」と「ペットロス」が特におもしろかった。出てくる男性はどうしても現代日本社会のカリカチュアだが、女性にはもっとリアリティがあり、同感できるところがあった。私がおばさん化しているからかもしれないが。
それにしても、村上龍は恥ずかしくてうまい。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 西部邁氏の遺言(2018.04.10)
- 「映画狂」について考える本(2018.04.04)
- 『おらおらでひとりいぐも』が35万部(2018.03.27)
- 高倉健について考える本(2018.03.25)
- 今も日本は「普請中」か(2018.03.23)
コメント