東京のベーコン
今日から東京国立近代美術館で始まる「フランシス・ベーコン展」の内覧会に昨晩行った。去年の11月にシドニーでベーコン展を見たばかりだが、今回の展覧会はその巡回ではない。出ている作品がほとんど違った。
シドニーのニュー・サウス・ウェルズ州立美術館で見たのは50数点だが、こちらは33点。点数は少ないが、後期のトリプティック(3面)作品が多いので、見ごたえからすると同じくらい満足のいくものだった。
初期の消えゆく人間や動物、叫ぶ人の肖像から、色彩豊かな空間の中の孤独な人になり、あるいは人間の形が壊れ、奇形の塊となる。一点一点の破壊的な強度に、見ていて鳥肌が立ってくる。とりわけ後期のトリプティックが並ぶ部屋は圧巻だった。
ベーコンは1909年生まれだが、実は長生きをしていて亡くなったのは1992年。素晴らしいのは、スタイルを変えながらもパワーが落ちていないことだ。後期の色彩感覚は、とりわけオレンジの使い方など相当にポップで、時代と呼応していたようにさえ見える。すべての作品に戦略があり、一点も失敗作がない。これは恐るべきことだ。
この展覧会で驚いたのは、日本にも優れたベーコンが何点もあったことだ。会場の東京国立近代美術館に横浜美術館、富山県立近代美術館、池田20世紀美術館。残念ながらトリプティックはないが、どれも傑作。台湾のヤゲオ財団というところから2点が出ていたが、うち1点はトリプティックで見たことのない淡色の作品。
そう言えば、ワインのシャトー・ムートン・ロートシルトは有名な画家にラベルの絵を頼むことで有名だが、ベーコンも1990年のボトルに描いている。数年前にそのワインのオーナーの女性と会う機会が会った時、ベーコンの話を聞いた。
彼女がベーコンに連絡を取ると、アトリエには来ないでホテルで待っていてくれと言われた。ロンドンのホテルで待つこと2週間、ベーコンがふらりと1人で小さな絵を持って現れたという。今回の展覧会は91年のニューヨーク近代美術館所蔵の遺作が出ているが、ラベルの絵もそれに近い。
この展覧会は5月26日まで。その後愛知に巡回。内覧会は知り合いに挨拶したり、どうしてもざわついていたので、もう一度じっくり見に行きたい。そう言えば、昨日会った関係者の話では準備に8年もかかったという。
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