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2013年3月27日 (水)

心に火を灯す映画『ある海辺の詩人』

ベネチアでもイタリア映画祭でも見逃していた、アンドレア・セグレ監督の『ある海辺の詩人』を見た。久しぶりに平日昼間のシネスイッチ銀座に行ったが、さすがに客は少ない。しかし落ち着いたいい客層で、心に火を灯すようなこの秀作にぴったりだった。

映画は中国人女性が慌ただしく移動する場面から始まる。ジャ・ジャンクー監督の映画にいつも出ているチャオ・タオだ。表情を見せないが意思の強さを感じさせる佇まいがいい。彼女はシュン・リーという名前で、ローマの衣服工場からベネチアの近くのキオッジャのバー「オステリア・パラディーゾ」に「転勤」させられる。

最初はイタリア語もろくろくできないが、次第にオステリアに集う年金生活者たちと仲良くなる。とりわけ、ユーゴからの移民のべーぺとは心が通い合う。シュン・リーも漁師の家の生まれだった。

それだけと言えばそれだけの話だが、そこには世界がある。世界各地に中国人を送り込む中国の闇の組織があり、息子との再会を夢見てひたすら働くチャオ・タオの強い思いがある。小さな港町キオッジャで、することがなくてバーに集う人々にもそれぞれの生き方があり、べーぺのように30年前にユーゴから移住した男もいる。

チャオ・タオは、中国の詩人屈原の祭りを再現しようと、盥の水の上に灯明を浮かべる。この美しいモチーフは何度か形を代えて現れ、ラストのシーンに至る。

キオッジャという港町の、観光名所はないが妙に雰囲気のある街を捉えるルカ・ビガッツィのカメラがいい。運河に浮かぶ灯明や、オステリアの窓の向こうに写る風景や、夕方の海辺など、水と光と窓を撮らせたらたぶん世界一のカメラマンだ。

この映画を見ながら、いろいろなことを考えた。ホウ・シャオシェンの『珈琲時光』を持って行ったベネチアで、ジャ・ジャンクーやチャオ・タオを交えて夕食をしたこと。2002年のイタリア映画祭の時に来日したルカ・ビガッティが、私の家のパーティに現れて、「イタリア映画祭2001」や「イタリア映画大回顧」のカタログをしっかり持って帰り、翌日はなぜか一人で箱根に行ったこと。彼のあごひげと悪戯っぽい笑い。

そして何より、キオッジャに行きたいと思った。パンフレットの岡本太郎氏のエッセーによれば、リド島からバスに乗れば、バスがフェリーニ乗ったりして、行きつけるようだ。今年は是非行こう。

なおこの映画は、来月12日まで。

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