入学式の言葉
昨日の「朝日新聞」夕刊の社会面トップに諏訪敦彦監督の顔写真があった。カンヌ出品が決まったのかと思ったら、東京造形大学の学長としての入学式の挨拶がネットで話題になっているという。フェイスブックの「いいね」が2万5千回らしい。「朝日新聞デジタル」にも記事が載っている。
記事には造形大のアドレスもあったので、挨拶全文を読んでみた。確かにうまい。
33年前に同じ大学に入学した自分は、大学に行くより現場の助監督の方がためになると思った。もはや大学で学ぶことはないと思ったが、ふと授業に戻って作品を作ったら、「私の作品は惨憺たる出来。一方で同級生たちの作品は社会の常識にとらわれることのない、自由な発想にあふれていました」。
つまり、創造において現場の経験より大事なのは自由な発想で、大学で学ぶのは「自分で考えること、つまり人間の自由を追求する営みであること」。
後半は芸術創造の社会的責任を説くが、やはり前半部分がうまい。何がうまいかというと、へたな経験主義よりも、大学で考えることを学ぶなさい、というところだ。それを卒業生で有名な監督となった諏訪さんが自分自身の失敗談を元に言うから、説得力がある。
そのうえ、自由な発想に立って卒業後に作った劇場作品が、先輩からは常識外れと言われながらも高い評価を得た後日談もつく。
私も芸術系の大学で教えているのでわかるが、学生は授業より友人や先輩と制作をする方に向かいがちだ。それは重要だけど、往々にして妙な方向に向かう。諏訪さんは「大学に来なさい」と言っているわけだから、学長として極めて真っ当である。
問題は、教員が学生自ら自分で考える力を養うような授業をしているかだ。単なる知識や技術の切り売りではそうはならない。その意味で私も考えさせられた。2年ほど前か、ここで紹介した立教大吉岡総長の大学院卒業式の挨拶と同じ方向だ。
反省もう一つ。自分は学長でも何でもないが、新入生を相手にした最初の授業で話す言葉は、もっと慎重に考えるべきだった。今からでも遅くはない。
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