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2013年5月19日 (日)

1930年代の日本映画に驚く:『隣りの八重ちゃん』

最近、1930年代の日本映画をDVDで見直して、その実験的精神に驚くことが多い。山中貞雄の『人情紙風船』(37)や清水宏の『按摩と女』(38)はこの数年何度か見ているが、今度、島津保次郎の『隣りの八重ちゃん』(34)を四半世紀ぶりに見た。

昔見たのは、1980年代後半のフィルムセンターだったと思う。その時以来、島津保次郎という名前は私の中に刻まれて、『兄とその妹』(39)など数本を見たはずだが、すべてあまりにも前のことで全く覚えていない。

今回見た『隣りの八重ちゃん』も、誰が出ているのか、どんなあらすじだったかも記憶からなくなっていたが、HD理マスター版DVDが出ているのを見て、買ってみた。さっそく見てみると、いやそのおもしろいこと。

話はたわいない。大学生と高校生の兄弟の住む家の隣りには、女学生の八重ちゃんが住んでいる。この2つの家は家族ぐるみの付き合いだ。そこへ八重ちゃんの姉が嫁入り先から出戻りで戻ってきて、小さな波紋が起きる。それだけの話だが、登場人物すべての感情が細やかに描かれている。

最初は兄弟のキャッチボールに始まるが、そこに遠くの列車の音がかぶさったり、時おり木々のアップが挿入されたりと、何ともリズミカル。

おもしろいのは八重ちゃんが同級生を連れてきての会話。大日方傳演じる兄の恵太郎はむしゃむしゃと食事をしているが、隣りの部屋で八重ちゃんは着替えを始め、友人は「おっぱいが小さいのね」などと言う。それに対して恵太郎は「お乳の話をしてんのか」と明るい。

こうしたエロチックな会話はほかにもあって、両家の父親同士が、社内の愛人についてこっそり話す場面もある。

友人は恵太郎のことを「フレデリック・マーチに似ているわね」と八重ちゃんに言うが、おそらくこの映画の制作直前に公開されたルビッチの『生活の設計』が念頭にあったのではないか。この映画は小津も影響を受けたと言われている。

兄弟と姉妹で見る映画はフライシャー兄弟のアニメ「ココ・シリーズ」で、ここにも松竹蒲田らしいシネフィル精神が現れている。

岡田嘉子演じる姉が戻ってきて、恵太郎と会う瞬間のアップの衝撃。これでもう2人の間に何か起こることがわかってしまう。そして兄弟と姉妹が映画を見に行く時の、タクシーの窓から写る一瞬都会の流れるような風景。

姉は家を出て、八重ちゃんの一家は突然朝鮮に転勤が決まる。このテンポの速さ、無駄のなさ。

ところで、映画界はカンヌ一色だ。日経の古賀重樹記者は連日ネットでレポートを書いている。ああ、うらやましい。週末に1930年代の映画をDVDで見ている自分と、思わず比べてしまう。

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