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2013年5月 3日 (金)

『25年目の弦楽四重奏』の緊密な作りに溜息

実を言うと、全く期待していなかった。『25年目の弦楽四重奏』という邦題を聞いて、「またか」と思った。また、クラシックと老人を組み合わせた映画かと。そのうえ四重奏と言えば、「カルテット‼」というそのものが題名の映画も公開中だし。

ところが、これが予想を上回るできだった。物語は25年がたった弦楽四重奏のメンバーのうち、年長のチェリストがパーキンソン病で引退を仲間に宣言するところから始まる。

そこから始まる3人のドロドロの物語。第2バイオリンのロバートは、今後は第1バイオリンもやりたいと宣言して、妻でビオラのジュリエットに呆れられる。第1バイオリンのダニエルは、ロバートとジュリエットの娘を指導するうちに、彼女を愛してしまう。ロバートは行きずりの不倫に走り、ジュリエットは娘と大喧嘩をする。

こう書くと、くだらないメロドラマのようだが、これが何とも緊密な構成と抑制の効いた溜息の出そうな演出で、じっくり見せてくれる。まず、俳優たちがいい。とりわけ、老いたチェロ奏者ピーターを演じるクリストファー・ウォーケンが、生々しく老いたさまを見せ、全体を引き締める。彼の70年代からの活躍ぶりを考えると、その苦渋に満ちた表情が、ひしひしと訴えかける。

怪優、フィリップ・シーモア・ホフマンの野心と嫉妬に満ちた狂い方も抜群。最初はとんでもない奴に見えるが、だんだんと彼の論理も理解できるようになるから不思議だ。その意味では、妻のジュリエットの苦悩も、ダニエルの突然の恋愛さえも、なぜか説得力がある。

ところどころに挟み込まれるニューヨークの風景がいい。雪のセントラルパークやオークションのシーン、あるいは美術館で見るレンブラントの自画像に至るまで、選び抜かれたショットだ。

ピーターが生徒たちにカザルスとの思い出を語りながら無伴奏チェロを弾くあたりから夢中になり、最後の演奏のシーンに至った時、不覚にも涙を流してしまった。おかしいな、こんなはずじゃと思いながら、途中から我を忘れたことに気がついた。監督はヤーロン・ジルバーマンで劇映画は初めてらしいが、邦題に惑わされて見ないと損をする。7月6日公開。

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