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2013年5月17日 (金)

自己模倣する松竹:『はじまりのみち』

今年になって松竹は、『東京物語』のリメイクを山田洋次が『東京家族』として作ったかと思ったら、今度は木下恵介監督を主人公に描く映画を作った。6月1日公開の『はじまりのみち』だ。最近の松竹のあられもない自己模倣ぶりに当惑しながら、試写を見にいった。

監督はアニメで知られる原恵一というのも気になった。アニメの監督が実写を作ると期待できるのは、高畑勲の『柳川掘割物語』で実証済みだ。

映画は戦時中、木下恵介監督が『陸軍』(44)を作った後、最後の場面が女々しいと軍部から非難されて嫌気がさして田舎に帰るシーンから始まる。物語は、脳溢血で倒れた母親を木下がリヤカーで17時間運んで疎開させるというベタな内容だ。

最初に撮影所長の城戸四郎役で大杉漣が出てきた時、「違う」と思った。もちろん城戸四郎に会ったことはないが、もっとカリスマ性があるはずだ。木下役の加瀬亮がリヤカーを引きはじめても、何か落ち着かなかった。

ところが彼が村の子供たちが先生と戯れる様子を見たりするあたり(もちろん『二十四の瞳』を思わせる)から、加瀬のたたずまいがいい感じに見えてきた。一緒に歩く兄役のユースケ・サンタマリアも、見守るような抑えた演技がいい。

道具を運ぶ便利屋が、映画館で木下の『陸軍』を見て感動した話をするあたりから、不覚にも涙が出た。そこに『陸軍』のラストで田中絹代が出征する息子を追いかけて走るシーンがつながる。終わりまでゆうに5分以上見せる。昨年見直したばかりなので、感動が蘇った。

それから宿屋に着いてその後無事疎開するが、見ていて落ち着かない。『陸軍』の感動が強すぎるから。母親役の田中裕子が息子に向けた手紙を読むあたりで、ようやく映画に戻った感じ。

ラストに木下が再び松竹に戻ったことが語られて、戦後の木下作品の名場面集が続く。これにまたやられた。『お嬢さん乾杯』の原節子と佐野周二の明るさ、『カルメン故郷に帰る』のカラーの鮮明さと高峰秀子の躍動ぶり。そして『二十四の瞳』の高峰秀子。また泣いてしまう。

映画自体、丁寧に撮影されたものでいくつかのシーンは印象に残るが、木下作品が引用された時の力が強すぎて(実にいい場面を選んでいる)、映画としてはちょっと不思議な仕上がりになった。監督を主人公にした映画は少ないので、ある意味では新ジャンルだが。

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3日のことですが、映画「はじまりのみち」を鑑賞しました。 戦時中、監督作『陸軍』が軍部からマークされ次回作の製作が中止となり そんな状況にうんざりした木下恵介は松竹に辞表を出す 戦況はますます悪化し山間地へと疎開すると決めた恵介は体の不自由な母をリヤカー...... [続きを読む]

受信: 2013年6月17日 (月) 12時32分

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