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2013年5月10日 (金)

『欲望のバージニア』が描く禁酒法時代

6月29日公開のジョン・ヒルコート監督の新作『欲望のバージニア』を見た。この監督が『ザ・ロード』で描いた近未来の世界が妙に印象に残ったからだ。スーパーのカートを押しながら、無人の地をとぼとぼ息子と歩くヴィゴ・モーテンセンが良かった。

今回はアメリカの1930年代前半、禁酒法時代のバージニア州の田舎が舞台だ。あれだけ近未来をリアルに描いたのだから、この時代をどんなに再現してくれるだろうと期待していた。

ところがこれが違う。その同時代にギャングを描いた『暗黒街の顔役』(32)は無理にしても、『ゴッドファーザー』(72)とか最近だと『パブリック・エネミーズ』(09)のような派手な銃撃戦はそこにはなかった。

考えてみたら、もともとそれらの映画と違って、舞台は大都会ではない。田舎の密造酒の話だ。車からの銃撃戦もないではないが、酒場ごと吹っ飛ぶような派手なシーンは当然ない。密造酒ビジネスで生きる暴力三兄弟が、新しくやってきた取締官と戦いを繰り広げるが、重要なのはドンパチよりも三兄弟のそれぞれのキャラクターだ。

末の弟(シャイア・ラブーフ)は牧師の娘(ミア・ワシコスカが最高)に入れあげ、長男(トム・ハーディ)はシカゴから来た謎の女(ジェシカ・チャスティン)と仲良くなり、次男(ジェイソン・クラーク)はアル中で雄叫びを挙げる。さらに取締官を演じるガイ・ピアースの変態ぶりや、裏社会のボスを演じる男役のゲイリー・オールドマンの渋さなど、俳優が新たに出てくるたびに嬉しくなる。

ところがドラマは意外に淡泊で、絶対強いはずの長男が二度も瀕死の傷を負ったり、三男もころりとやられたり、あまりカタルシスはない。そしてラストのその後の三兄弟の暮らしには唖然とした。その意味では、従来のギャング映画とは全く異なる、21世紀的なポストモダンなギャング映画ということだろう。

そんなことを考えたのは、大学の課題で学生に西部劇について書かせたら、その歴史意識の違いに驚いたからかもしれない。

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