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2013年6月19日 (水)

清水宏の国策映画2本

清水宏の戦時中の作品を2本見た。『女医の記録』(41)と『サヨンの鐘』(43)。どちらもいかにも戦時下の国策的なテーマだが、戦意高揚的な雰囲気はほとんどない。清水宏としては失敗作だろうが、明るい子どもが大勢出てきて、清水らしい大らかな精神に溢れている。

『女医の記録』は、無医村で夏休みに診療奉仕活動を行う女医たちを描いたもの。村人たちは純朴だが、医者より行者の祈祷を信じ、生い茂る木々に囲まれた家の中で、戸を閉め切って暮らしている。

彼らに対して、医療が体を回復させることを教え、家の周りの木を伐り、戸を開けて光と風を室内に入れることを薦めるのが女医の仕事だ。子どもたちの何とも楽しそうな様子を含めて、これもまたどこか原始共産制のようなのどかさがある。あるいは、戦後民主主義の啓蒙映画のようにも見える。

いずれにしても、戦争の影は皆無だ。佐分利信演じる教師が教える学校の教室に飾られた写真は、御真影ではなく西郷隆盛だし、女医の田中絹代も説教臭さがない。終盤、田中が佐分利に微かな恋心を抱くような、2人の切り返しのショットが鮮やかだ。

『サヨンの鐘』は、台湾の高砂族と日本人警官たちの交流を描いた純然たる国策映画だが、これまた戦時下の精神を説くような場面は一つもない。中国人女優として知られた李香蘭が高砂族の娘サヨンを演じるが、映画は彼らの純朴さや豚やアヒルなどと暮らす生活の楽しさを見せるばかりだ。サヨンが恋するのは同じ高砂族の青年だし、日本人よりも高砂族の方が丁寧に描かれている。

プリントの状態が悪くあちこちが切れているので筋が分かりにくいが、サヨンは日本人警官の出征を見送る途中で、川に落ちて激流に呑まれる。唐突な死で映画は終わるが、ラストは彼女を慕う子供や家畜の行列を清水らしい移動撮影で見せてくれる。

この2本を見ただけで、清水がいわゆる軍国主義的な精神主義に全く関心がなかったことがよくわかる。

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