『東京物語』のデジタル復元版に驚嘆する
今朝、朝日新聞の別刷りbeで、小津安二郎監督の『東京物語』が取り上げられていて、あっと声を挙げた。昨日、この映画のデジタル復元版を見たばかりだったからだ。朝日の記事は、小津の絵葉書を除くと、特にどうということはなかったけれど。
今の大学生に見せたいという松竹の希望で、今年の2月にベルリン国際映画祭で披露した最新のデジタル復元版を、私の勤める大学で上映した。何と国内初上映。ベルリンではデジタル上映だったから、35ミリ版での上映は関係者以外は世界初と直前に聞いて、卒倒しそうになった。
復元版の美しさは、予想を遥かに上回るものだった。オリジナルネガもマスターポジも残っていない『東京物語』は、当時の上映用プリントをマスターとしてデュープネガを作り、そこからポジを起こしていたため、とにかく画像が鮮明でなく、雑音の多い印象があった。
これまでスクリーンで5、6回は見ている。うち2回はパリだ。VHSやDVDでも2、3回ずつ見ているはずだ。ところが今回の復元版は全く違っていた。
まず、音が違う。杉村春子演じる長女の家の夜のシーンに、浪花節のような声や三味線が聞こえるのを初めて聞いた。あるいは尾道のシーンで船のエンジンの音が何度も何度も印象的に聞こえたり、あるいはたぶん東山千栄子演じる母が孫と遊ぶ時だったと思うが、音楽が微かに聞こえてくる。熱海の温泉では若者たちの麻雀や歌声は、本当に耳障りなのがよくわかる。
それから鮮明な映像で、室内の細かな小道具が初めてすべて見えた。室内で何度も手前に蚊取り線香が写り、その煙まで見える。原節子の住むアパートは廊下の自転車から、部屋の中の亡夫の写真までくっきり。そして登場人物たちの白いシャツが、小さな襞まで浮かびかがる。
何より、終盤の尾道の夏の暑さが、よく出ていた。そこに流れる瀬戸内海独特の優しい空気と共に。
ところで、150人近い参加学生は、1、2年生が多かったこともあって、何と半分近くがこの映画を見るのは初めてだった。いくらこちらがプリントの美しさを語っても、彼らは小津映画の不思議な美学に初めて出会って面喰った様子だった。初めてだからこそ、いい状態で見た方がいいのは間違いないが。
| 固定リンク
「映画」カテゴリの記事
- 『東京オリンピック』から『オリンピア』へ(2026.10.15)
- 『襲名』に考える(2026.10.13)
- 『ディスクロージャー・デイ』のおもしろさと不可解さ(2026.10.07)
- 『ナギダイアリー』の新境地(2026.10.01)
- 『ビルマの竪琴』から『花と兵隊』へ(2026.09.27)


コメント