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2013年6月22日 (土)

やっぱり謎の『楽園からの旅人』

長生きをした巨匠監督の晩年の作品は、一筆書きのようなシンプルで謎めいた魅力に満ちている。最近だとワイダの『菖蒲』や新藤兼人の『一枚のハガキ』がそうだが、8月17日公開のエルマンノ・オルミ監督『楽園からの旅人』もそんな一本。

イタリアのオルミ監督も今年で82歳。この作品は2年前のものだが、そもそも『ポー川の光』(06)の時に最後の劇映画といっていたはずだ。今度の作品はそれよりさらに削ぎ落として、禅問答みたいですらある。

映画は古い教会が取り壊される場面から始まる。キリスト像がクレーンで吊り下げられ、聖母子像の絵が取り外される。それを一人で眺めて嘆く老司祭。何もなくなった教会に、アフリカからの不法移民が住み始める。椅子を集めてその上に段ボールや布を貼って、彼らの家ができる。

そのアフリカ人を取り締まりに来る地区の保安委員。アフリカ人もいろいろで、技師も娼婦も身重の女性も、爆発物を隠すテロリストもいる。フランス行きの怪しげなチケットを売る男も。

物語はすべて何もない教会の中で展開する。ほとんど何も起こらないうえに、終わりも謎めいている。しかしそこには現代における宗教や移民といった問題が凝縮されていて、屋根から雨がぽつりとおちたり、盥の水にステンドグラスが映るだけで神々しさが巻き起こる。あるいは音の出ないテレビに映る海岸の廃船。

自分自身が死にそうな感じの老司祭を演じるマイケル・ロンズデールが何ともいい。ちょうど『神々と男たち』(10)で演じた、アルジェリアの牧師の延長線上にあるかのようだ。どちらもキリスト教とアフリカの遠さと近さを見せる作品だ。

原題はIl villaggio di cartoneで、「ボール紙の村」という感じか。実を言うと2年前にベネチアで見ていて、英語字幕でよくわからなかったので再見したが、謎はむしろ深まった感じだ。

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