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2013年6月12日 (水)

清水宏のサウンド版2本

フィルムセンターの清水宏特集にハマっている。先日2本見たら、試写で新作を見るよりも優先したい気分になった。昨日見たのは『大学の若旦那』(33)と『東京の英雄』(35)で2本ともいわゆるサウンド版。

サウンド版とはサイレントからトーキーの移行期の形式で、音楽は入るが会話は字幕というもの。1930年代前半、日本はトーキーの導入に時間がかかり、1935年くらいまではこのサウンド版の映画が多数存在する。今回の清水宏特集では、この2本に先日見た『金環触』(33)の3本がある。

3本を見て思ったのは、サウンド版にはサイレントともトーキーとも違った美学があるということだ。『港の日本娘』のようなサイレントは、ジャン・ヴィゴの『ニースについて』を思わせるような華麗なショットの連なりで魅了するが、『有りがとうさん』(36)のようなトーキーになると、一挙にリアリズムで見せる。清水特有の土地の雰囲気が濃厚な映画だ。

ところがサウンド版は全体の半分くらいに音楽が入っているから、劇的な物語があって、存在感のある俳優があれば、もう成り立ってしまう。昨日の『東京の英雄』がそうで、義理の母に育てられた男が成長して新聞記者になり、詐欺会社を起こしている父親を見つけて告発するというもの。義理の母は2人の連れ子と共に彼を育て上げるが、そのためにクラブを経営する。

連れ子の娘は結婚後、母親の職業が原因で離縁されて戻ってくるが、家を出る。その弟は姉の離婚後恋人が会ってくれなくなり、その理由を知って彼も家を出る。弟はヤクザになるが、彼を雇ったのはかつて家族を捨てた父親だった。新聞記者になった主人公は、家族と社会を裏切った父親に自決を迫る。

何とも濃い内容だが、新聞記者役の藤井貢のちょっと小太りで寂しさを湛えた佇まいにほろりとする。妹の桑野通子は都会的で輝いているし、弟の三井英夫の翳りのある表情もいい。そして母親の吉川満子には、ほとんど“日本の母”を感じるくらい泣けてくる。

『金環触』もそうだったが、コテコテのドラマにサウンド版はぴったりだ。サウンド版の美学は、今のテレビドラマに近いかもしれない。若大将シリーズの元祖ともいうべき『大学の若旦那』に触れる余裕がなくなったが、この喜劇はサイレントの方があっていたとだけ書いておきたい。


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