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2013年6月13日 (木)

清水宏と藤井貢

『大学の若旦那』(33)について昨日書き損ねたので、忘れないうちに書いておきたい。というのは、少し資料を見たらいろいろなことがわかったから。清水宏についての唯一の単行本が、フィルムアート社から出ている『映画読本 清水宏』。

先日ここで紹介した『小津安二郎周游』を書いた田中眞澄氏を始めとして、木全公彦、佐藤武、佐藤千広の4氏による共著だ。いわゆる清水論はないが、この監督の文章や、関係者へのインタビュー、そして彼が作った全163本の解説や興味深いコラムがあるので、とても便利。

『大学の若旦那』では、主演の藤井貢が何ともはまり役だ。背は高くないが肩幅が広くがっちりして、若旦那が大学でやるラグビー選手そのものの体つきだ。おまけに役名も藤井で、何だか映画と一体化している印象を受ける。

『映画読本』によれば、藤井は慶応ボーイでラグビー選手だったというから、びっくりした。「スポーツ好きな清水は藤井をことのほか気に入り、岸松雄によれば、二人は朝から晩まで一緒に過ごし、洋服のサイズも同じで、清水の可愛がりようは溺愛に近かったという」。

確かに私が見た33年から35年までの4本のうち、3本に主演している。『金環触』では、地方出身で友人に2度も恋人を譲る武骨な渋い役柄を演じ、『東京の英雄』では、苦労して新聞記者になり、父親の悪事を暴く勇気ある男を演じる。

当時流行のいわゆるモダンボーイになりきれない、日本的な義理人情を大事にする男で、確かに清水映画の持ち味に近い。こういう解説もあった。「清水も体型が似ていた藤井を自分の分身のように可愛がっていたという」。そうか、確かに写真で見る清水宏と体型は近い。清水監督をハンサムにしたのが藤井貢という役者だったのではないか。

『大学の若旦那』は、醤油問屋の若旦那が大学でラグビーをやる話だが、芸者に入れあげたり、レビューのダンサーの一目ぼれしたり、和洋折衷の渾然とした感じがいい。ちなみに若旦那の父親はラグビーを「西瓜取り」と呼んで毛嫌いする。

スポーツ映画は当時の流行らしく、今読んでいるミツヨ・ワダ・マルシアーノ『ニッポン・モダン 日本映画』によれば、ハリウッドのハロルド・ロイドらのカレッジ・コメディを真似しながらも、「単なる映画テクストの模倣を基調としたジャンルの借用という単純なプロセスを取るのではなく、明治維新以来の“富国強兵”という概念、また近代スポーツの普及を通してナショナリズムを強化するという時代の要請と密接に結び付きながら再構築されたものであった」。深読みではないかと思うが、この本は読み終えたらきちんと論じたい。

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