« 清水宏の国策映画2本 | トップページ | レオナルドの手稿に唸る »

2013年6月20日 (木)

『蜂の巣の子供たち』はネオレアリズモ映画か

またフィルムセンターに出かけて、清水宏の『蜂の巣の子供たち』(1948)を見た。映画史的には有名な映画だが、実は私は見ていなかった。孤児を集めて撮ったというだけで、いわゆる戦後の民主主義映画のような気がして見る気がしなかったが、今回見てびっくり。

イタリアのネオレアリズモ映画とほぼ同じ手法やテーマだったからだ。登場するのは全員素人で、即興的な演出。そして大半がロケ撮影で、敗戦国の荒れ果てた大地に生きる人々を描く。そして何より、子供が重要な役割を演じる。

あとで調べてみたら、日本で最初に公開されたネオレアリズモ映画はロベルト・ロッセリーニ監督の『戦火のかなた』(46)で、49年の9月のことだ。ロッセリーニのひとつ前の『無防備都市』(45)の公開は翌年。つまり48年8月に公開された『蜂の巣の子供たち』は、当然ながらこれらのネオレアリズモ映画を見ずに作られている。

考えてみたら、この映画に出てくるテーマや手法は、ほとんど清水宏が戦前から実践してきたものだ。旅と放浪、多くの子供たち、子どもたちを見守る寂しい大人、堕ちた女と彼女へのやさしい視線。放浪する人々を捉えるカメラが前進してゆく、清水特有の移動撮影。これまでになかったのは、素人の起用だけだろう。

よく知られているように、この映画に出てくる子どもたちは本当の孤児で、清水が引き取って育てたという。『映画読本 清水宏』の年表によれば、実際には撮影のために孤児院から孤児を貰い受けて、京都の青蓮院内で共同生活を始めたらしい。そして和歌山の山林王が資金を提供し、同時に家や山林をロケに使わせている。

その本で知ったのは、復員兵を演じたのは熱海駅員で、家族を広島で失った「堕ちる女」を演じるのは、京都の百貨店員だということ。彼らは明らかにプロの俳優にない、奇妙な存在感を残している。

映画自体は、下関で出会う復員兵と孤児たちが、仕事を求めて四国の塩田に行ったり、大阪に行ったりしながら放浪してゆくというもの。最後は「みかえりの塔」という清水が41年に同名の映画で取り上げた場所に、全員で行く。

子どもたちの演技は時おりわざとらしいし、全体を引っ張る物語もなく、ある意味でエピソードの集積だが、それでも敗戦直後の日本を優しい視線でとらえた貴重な作品だ。たぶん清水宏の傑作はサイレントやその美学を継承させたトーキー初期作品にあると言えるだろうが、その戦後の歩みもまた興味深い。

|

« 清水宏の国策映画2本 | トップページ | レオナルドの手稿に唸る »

映画」カテゴリの記事

コメント

オープニングの「はーちのこはーちのこ…」という歌い出しからして、音声が悪いのもあってか、本当に蜂の大群を連想させます。「よしぼーん」と亡くなった子供に最期のお別れを言う子供達が、印象に残っています。
孤児の哀しさと逞しさを感じました。
懐かしい映画です。また見たいな。

投稿: みや | 2014年1月12日 (日) 10時20分

清水宏が東海道線浜松で浮浪児を拾ったのは松竹を退社した1945年。「蜂の巣の子供たち」制作を思い立ったのは1947年なので、映画のために孤児院から浮浪児を貰い受けたというのは違います。(映画読本 清水宏 2009年改訂版より)
病気の子どもを背負って山頂を目指す移動シーンは戦後の「声なき声」を代弁しているかのようで秀逸です。

投稿: 虹助 | 2014年2月25日 (火) 02時45分

本当に日本のネオ・レアリズム映画ですね。フランスのヌーベルバーグの源流がイタリアのその流れなので清水宏監督の先駆性には驚かされます…。雲を背景に女の人になついた戦災孤児が別れるショットの美しさは秀逸!!ちょっと溝口健二監督の(雨月物語)のラストシーンを思わせるカメラワーク♪素人の人や実際の孤児たちがこんなにも生き生きと映画の中で詩情豊かに描かれるとはー。孤児が海に向かって叫ぶシーンやラストの蜂の子みたいに子どもたちがj感化院のみかえりの塔へ帰って行くシーンを含めて何処かフランソワ・トリュフォー監督の(大人は判ってくれない)や(トリュフォーの思春期)とも通じ合う映画心がある様な気もした…。

投稿: PineWood | 2016年5月 7日 (土) 06時47分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/57628004

この記事へのトラックバック一覧です: 『蜂の巣の子供たち』はネオレアリズモ映画か:

« 清水宏の国策映画2本 | トップページ | レオナルドの手稿に唸る »