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2013年7月12日 (金)

清水宏のトーキー初期2本

フィルムセンターの清水宏特集が再開し、また落ち着かない毎日となった。最近見たのは『泣き濡れた春の女よ』(33)と『金色夜叉』(37)。傑作が多いトーキー初期の作品群の中では平凡な出来かもしれないが、それでも見ごたえがあった。

『泣き濡れた春の女よ』は、トーキー第一作。そのせいか、セリフがゆっくりだし、セットの撮影が多く、清水宏らしいロケや自然な演技が少ないのは残念。あるいは時代がかった演技の岡田嘉子のせいもあるのか。そのうえにプリント状態も悪く、ラストに「ぶおーん」と変な音までする。

物語は北海道の港町のチャブ屋を中心に、女給たちとそこに出入りする炭鉱夫たちの恋を描く。健二(大日方傳)は女将のお浜(岡田嘉子)と若いお藤(千早晶子)の間を揺れ動き、彼の友人はお藤を一途に愛する。彼らの上官はお浜を好きになる。最後はお浜が自分を犠牲にして、追われる健二とお藤を逃がす。

それでも子供を探す岡田の声と共に、彼女の足だけが何度か写ったり、あるい健二とお浜が出てゆく時に、2人の足がゆっくりと階段を下りるのがアップで見えて、岡田が上官に歌う歌が聞こえたりする場面は、まさにサイレントの美学で嬉しくなる。

岡田は娘に「これからはかあちゃんと二人きりよ」と言いながら泣き、窓の外には港を出る船が見える。清水らしい自己犠牲の浪花節と、北海道の炭鉱港町の叙情と、チャブ屋の退廃的な雰囲気が味わえる。

『金色夜叉』は、いわずとしれた尾崎紅葉の小説の何度目かの映画化だが、トーキーでは初めてらしい。冒頭のカルタ取りのシーンからユーモアいっぱいで、古くさい愛憎メロドラマを何ともモダンに仕上げている。中心となる貫一役の夏川大二郎とお宮役の河崎弘子以上に、周囲の登場人物がいい。

とりわけ高利貸し老人の後妻役の三宅邦子が、夫からの愛情表現を気持ち悪がり、若い貫一へしつこく付きまとうさまは、何とも現代的な女性ぶり。お宮が嫁いだ遠山とも仲良く、2人で画策するシーンもおかしい。佐分利信や笠智衆が演じる貫一の同級生たちも出番は少ないが、貫一を殴り倒すバンカラ学生ぶりがいい。佐分利信がお宮と会う場面では、後ろにボート部の訓練シーンが写っていて何ともモダン。

そもそも熱海で貫一がお宮を蹴るシーンも、海沿いの大きな道路だし、すぐに遠景ショットとなる。遠山の大邸宅を人物の動きを追って、気持ちのいいようにカメラが横移動してゆく。溝口もびっくりの長回しだ。貫一が三宅邦子と歩くシーンをはじめとして、いくつもの歩くシーンに前移動、横移動の撮影が使われて、全体が躍動感に溢れている。

今月も清水宏と共に過ぎてゆきそうだ。

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コメント

ラストは船の汽笛の音。あれがあるから最後がいい。

投稿: くねくね | 2015年3月 7日 (土) 10時34分

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