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2013年7月 6日 (土)

谷文晁の多様性

ミッドタウンのサントリー美術館で始まったばかりの「谷文晁展」を見た。名前は有名なので知っていたが、江戸時代の代表的水墨画家くらいに思っていた。ところがそんなに簡単ではなかった。彼の作品を百点ほど見ると、江戸絵画の豊饒さがうかがえる。

展覧会の始めにいわゆる山水画が並ぶので、その滝や霧や岩肌を楽しんでいたら、突然カラフルな洋画のような作品があった。オランダから来た油彩画を模写したものという。あるいは《慈母観音図》や《仏涅槃図》もたくさんの色を使った豪華な絵だ。南画というか、山水画は彼の一部でしかない。

要は何でもありだ。私が一番気に入ったのは、《文晁夫妻影図》。男女の横顔を、眉毛の一本まできっちりと輪郭を描いているが、中は真っ黒。人を食ったような題材だ。昔、赤坂見附にあった頃のサントリー美術館で影絵だけを集めた奇妙な展覧会があったが、その冒頭にあったのが、この絵のはず。

家の中で障子に映る影絵を楽しむというのは、ある意味で映像文化だし、洗練の極致だ。谷文晁の絵は、スタイルはさまざまだが、その意味でどれも洗練されている。山水画はどれも惚れ惚れするほどだし、花鳥風月を描いた絵も、バランスといい、色彩といい、とにかく絶妙。

あるいは文晁が仕えた松平定信と江戸湾巡視に同行した時の、各地の風景画も大ざっぱなようで、実は西洋的な遠近法が取り入れられている。《異国船図》は黒をバックに金で外国船が描かれたもので、外国船への警戒を呼び掛けるビラを再利用したものという。黒の背景が何とも恐怖を呼ぶ。

18世紀後半から19世紀前半、いわゆる天下泰平のはずだが実は既に西洋文化がひしひしと迫ってきている。文晁が自然とその要素を取り入れていたことがよくわかる。

家に帰ってカタログを読んで、文晁が当時から大流行の画家だったことを知った。喜寿のお祝いを両国の万八楼でやったが、来客が多すぎて立錐の余地もなかったという。急遽近くの亀清も借りたが、酒は六樽半空いたらしい。何と文晁ブランドの酒まであったというから、今の芸能人並みだ。日本文化が最も洗練されていた時代かもしれない。

そういえば、明日まで開催の「夏目漱石の美術世界」展でも彼の絵が出ていた。こちらの展覧会についてはこのブログでも書いたが、少しきちんと書き直したものをWEBRONZAに書いたので、興味のある方はどうぞ。

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