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2013年8月28日 (水)

『陸軍登戸研究所』の衝撃

何度も書くように、ドキュメンタリー映画は、格別におもしろい人間が見つかってその人に肉薄できれば、既に半分は成功だ。先日見た『陸軍登戸研究所』は、1人ではなく多くの人間が出てくるが、秘密兵器製造にかかわった人々の話だから、抜群に刺激的だ。見終わってガツンと殴られたような衝撃を受けたのは、『立候補』と同じ。


戸山や登戸に秘密兵器を研究する陸軍の研究所があったことは、何度か聞いたことがある。しかしきちんと何かを読んだことも、調べたこともなかった。この映画は題名通り、陸軍登戸研究所に当時関わった人々への6年に渡るインタビューを中心にまとめたものだ。3時間の映画だが、退屈しない。

正式名称は第九陸軍技術研究所。4つの科があって、幹部が250人、職員が750人という大所帯だ。映画は主に若くして入所した職員を中心に話を聞いている。彼らが開発しているのは、風船爆弾、怪力光線、秘密カメラ、毒薬、細菌、偽造紙幣、偽造パスポートなどなど。

かつては若者でも、今はみな80代から90代で、なかには病床にいる者もいる。主に触れられるのは風船爆弾と偽造紙幣。風船爆弾は、登戸での開発の話から全国の学校で紙を貼り合わせるのに携わった当時の中学生、さらに日比谷の日劇や宝塚劇場で仕上げをした女学生、そして茨城や福島でで打ち上げに携わった人々。みんな滔々と語る。

大半は何のためかわからず手伝っていたが、偽造紙幣だとそうはいかない。「贋金は簡単に作れるんですよー」と笑う老人。マレー紙幣や中国紙幣を偽造し、戦地に運び込んで軍隊に渡す。香港を占領してからは、印刷機を押収して登戸に持ち込んで印刷する。「贋金だか本物だかもうわからんですね」

3科で偽造紙幣に関わっていた技術者は戦後横須賀に集められ、アメリカ軍の下で働く。米国に行った者もいる。「登戸のことは言えても、アメリカで何をしていたかは絶対言えません。お墓に持って行きます」。字幕で、北朝鮮や中国の偽造パスポートを作らされていたらしい、と出てくる。

もう一つ。伴繁雄という幹部技術者の後妻の話が抜群におもしろい。伴が『陸軍登戸研究所の真実』を書くのを手伝ったというが、伴の死後自分が全く愛されていなかったことに気づき、写真も仕舞った。「私のためには、なーんにもしてくれなかった」

戦後60年以上たっての、この饒舌の渦。みんなが実に嬉しそうに話す。それは映画『ハンナ・アーレント』にあった「悪の凡庸さ」に近い。

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