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2013年8月18日 (日)

新東宝で巨匠が撮った2本

「新東宝」という映画会社は、私にとって昔から謎だった。東宝争議でできた会社で、当初は中川信夫や市川崑などが在籍していて多くの巨匠も何本か撮っているが、途中からいわゆるエログロ路線が出てきて、『女体渦巻島』や『花嫁吸血魔』のようなタイトルも多い。ここで何度も書いた清水宏も数本撮っている。

最近、新東宝で巨匠が撮った作品を2本、DVDで見た。内田吐夢の『たそがれ酒場』(55)と五所平之助の『煙突の見える場所』(53)。

『たそがれ酒場』は、大衆酒場に開店から閉店まで集まる人々を描いたいわゆる「グランドホテル形式」の作品だ。内田吐夢は戦前はサイレントから日活で活躍したが、満映に行ってそのままシベリアに10年近く抑留された監督だが、これは『血槍富士』に次ぐ帰国第2作で新東宝はこれ1本だけだ。

一般的には知られていない映画だが、これが実におもしろかった。誰もいない暗い酒場をカメラが舐めるように写してゆく冒頭のショットに始まって、さまざまな階級の人々の間を行き来する流麗なカメラに酔ってしまう。

大学の先生と学生たちが「若者よ」を歌うと思えば、そこで出会った元兵隊二人は「やめろ」と叫んで軍歌を歌う。外からはデモ隊の「聞け万国の労働者」が聞こえる。あるいは女給が「さくらさくら」を歌ったり、専属歌手が「カルメン」を歌ったり。これじゃまるで、大島渚の『日本春歌考』だ。

野添ひとみ演じる女給と愛し合うヤクザ(宇津井健!)や、酒場で働いているが将来オペラ歌手を夢見る男やダンサーを夢見る女(津島恵子)のそれぞれの物語に、戦争で人生が変わってしまった中年男たちの話が交錯する。

中年男の中に、元画家役の小杉勇を始めとして、サイレントから活躍する顔ぶれがいた。高田稔や江川宇礼雄などの清水宏作品の二枚目たちが、いい感じに老けていた。とりわけハーフの江川は『港の日本娘』が印象的だったので、懐かしかった。

『煙突の見える場所』は、キネ旬4位の評価の高い作品で私も30年ほど前に三百人劇場で前に見た。上原謙と田中絹代の夫婦を中心に、そこに間借りする高峰秀子と芥川比呂志の4人の数日間を描いたものだが、喜劇のような悲劇のような、何とも人間心理の深淵を覗いたような感じがたまらない。

夫婦の家に突然赤ん坊が捨てられていて、実はそれは田中の死んだはずの夫からのものとわかって大騒ぎという展開だが、誠意と悪意、愛と憎しみといった対立感情が行きつ戻りつする。そして田中や高峰の女性の生命力が勝利してゆく。これまた巨匠の熟練の技だった。

ところで見る場所によって本数が変わって見えるという例の4本煙突は、東電の千住火力発電所らしい。もちろん今はないが、こんなこともネットですぐわかるのがすごい。間違っていたりして。

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