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2013年8月10日 (土)

中村登の再評価が始まる

最近清水宏をまとめて見てその天才ぶりに驚いたが、松竹大船にはまだまだ知られざる巨匠がたくさんいる。気にかかっていた1人が中村登で、彼の『夜の片鱗』(1964)が生誕百年記念として今年のベネチア国際映画祭のクラシック部門で上映されるというので、ニュープリントの試写を見に行った。

中村登は1913年生まれだから、黒澤明より3つ下、木下恵介より1つ下に当たる。今村昌平が20年生まれで、大島渚は32年生まれ。つまり基本的には戦前にデビューした木下や黒澤の世代だが、今では同じ松竹でも木下に比べて影が薄い。

私も彼の映画は、四半世紀前に銀座の並木座で『古都』を見たくらいだろう。今回『夜の片鱗』を始めて見て、その映像の濃密さに魅了された。若い女がヤクザに騙されて体を売るという話だが、冒頭からアップで写る桑野みゆきの色気に圧倒される。

桑野みゆき演じる芳江は、ある夜、客の会社員に気にいられ、何度か会ううちに自分の過去を語り始める。6年前、町工場で勤めながら、夜はバーでバイトをしていた。そこで知り合った男(平幹二郎)は実はヤクザで、いつの間にか客を取らされるようになる。そしてヤクザの親分のいいなりになってゆく。

夜のシーンには、赤や青、黄色といったネオンの色が散りばめられ、桑野はその中を泳ぐように漂う。最初は威張っていた平幹二郎演じるヤクザも、次第に彼女に優しくなってゆく。その中で現れた会社員は、転勤するので一緒に逃げようと誘う。ヤクザとの間で悩む桑野。

テーマ的には大島渚や今村昌平などが取り上げそうな娼婦の物語だが、彼らのような反社会性はない。1961年の安保闘争の国会前デモがテレビのニュースで写るシーンがあるが、桑野は「アンポって何?」と聞き、平は「知ったことか」と答える。

むしろプログラムピクチャー的なノワールな感じが全体に漂っているが、どこか品良くまとまっている。新宿や銀座のロケも実に丁寧に撮られていて、映像の厚みがもたらすメロドラマ的な情感がねっとり伝わってくる。果たしてこの映画はベネチアでどのような評価を得るか楽しみだ。

なお、11月の東京フィルメックスではこの作品を含む中村登作品を数本上映するという。彼の再評価が始まる。

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