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2013年8月 3日 (土)

清水宏の『次郎物語』に泣く

フィルムセンターの清水宏特集も終盤だが、『次郎物語』(55)を期待せずに見に行って、泣いてしまった。金曜15時というのに、たぶん満席。年配の男性を中心にした観客の多くが、ラストの木暮美千代の演技に泣いていた。

物語は、田舎に住む次郎の小学生から中学生までを描く。里子に出された次郎が本家に戻るが、しばらくすると家が傾いて母方の家に引き取られる。病気になって実家に戻った母とようやく心が通じ合い始めると、母は亡くなる。そして父は再婚し、次郎は酒屋になった本家に戻るが、新しい母に次郎は「おかあさん」と言えない。

ラストでみんなが泣いたシーンは、次郎が初めて義母を「おかあさん」と呼んで探すところ。その声を聴いた義母役の木暮美千代は嬉しくて前後左右に走り回る。その即興的な躍動感は、清水宏ならでは。その前に、木暮が乳母から「新しいお母さんは優しい」と次郎が言ったのを聞いて、密かに喜ぶという伏線がある。

もちろん清水の戦後映画にありがちな欠点も多い。何より音楽が過多のうえに、メロディーに情感が込められ過ぎている。そのうえ、次郎を始めとする少年の顔が「子役」の顔で、美形すぎる。戦前の爆弾小僧や突貫小僧のような個性豊かな顔ではないし、演技も自由な感じがしない。

それでも田舎の風景はいい。車は一台も登場せず、乗合馬車が主な乗物で人力車さえあり、次郎はやたらに遠くまで歩く。祖父に教わった通り、胸を張って。その道の雰囲気や後退する移動撮影が何とも快い。ロングショットが多いなかに、時おり挟まる次郎や乳母、母などのアップも鮮烈だ。

私には本家の大きな家が懐かしかった。自分の母の実家を思い出した。あるいは私の叔父が住んでいた大きな本家。父の会社が倒産するのも、実際に体験した。ある日突然、家からピアノやソファがなくなった。母は実家に帰ると泣きだし、父は寝込んだ。

そんなことをぼんやり思い出していたら、フィルムセンターのトイレに財布を忘れた。慌てて取りに戻ったが、幸いなことにそのまま残っていた。

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