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2013年8月14日 (水)

『もうひとりの息子』のパレスチナ問題

正直なところ、ユダヤ人という存在がよくわからない。パレスチナ問題も、何度解説を読んでもピンと来ない。だから10月公開の『もうひとりの息子』は、ユダヤ人とパレスチナ人の赤ん坊が入れ替わった悲劇と聞いてちょっと躊躇していたが、去年の東京国際映画祭のグランプリと監督賞のダブル受賞作品ということで、見ることにした。

これが何ともわかりやすい映画だった。フランス系のユダヤ人医師の母親は、血液検査で自分の息子が実の子でない事実を知る。夫と共に悩むが、妻は実の息子に会ってみたいと思う。出生時に入れ替わった実の息子は、パレスチナ地区に住むアラブ人家族に育っていた。

まるで出来過ぎたような話だが、2つの家庭が少しずつ近づくさまが、丁寧に描かれている。とりわけ双方の母親が積極的で、現実を見据えながらも勇気を持って動いていくのがいい。そして2人の少年も素直で快い。

最初に病院で2つの夫婦が会った時、会いたくなさそうな夫たちに比べて、妻たちは相手を見て話し、しまいには女同士で抱き合う。あるいは最初にアラブ人家族が息子を連れてフランス人家族の家に現れた時の、母たちの表情と言ったら。とにかく2人の母親が出てくるだけで、その強さ、優しさに泣いてしまう。

突然敵国の家族に育ったと言われた息子たちも、素直に自分の実の母親と会いたいと思い、息子同士も仲良くなる。そして父親たちも少しずつ現実を直視し始める。

ロマーヌ・レヴィという女性監督の作品だが、2人の母親を始めとして、家族のそれぞれ心の動きを繊細に描きわけるのに成功している。あえていえば、出来過ぎているというか、私などは不満そうだったアラブ人の兄が何かしでかすのではと思っていたが。あくまで未来を向いた形で終わる。

よくまとまった秀作だが、これが東京国際映画祭のダブル受賞かと思うとちょっと物足りない。もっと突き抜けた作品が欲しいと思う。ただし、今のコンペのレベルだと順当なところかも。前年の『最強のふたり』に比べたら、ずっといいし。

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