謎のブエノスアイレス:その(1)
ブエノスアイレスには、1988年に行ったことがある。その前に行ったサンパウロ・ビエンナーレで出会った美人の画廊主に案内してもらった場所の一つに、3階建ての大きな古書店があった。まるで1920年代のパリにタイムスリップしたような美しい空間だった記憶がある。
今回のブエノスアイレスの滞在はある国際会議のためだが、その休憩時間に「ブエノスアイレスに世界一美しい書店がある」と話しているフランス人女性がいた。私はすかさず「25年前に行った」と自慢した。
そうすると急にまた行きたくなった。空いた時間を見計らって、歩き出した。名前も住所もわからないが、その時に泊まった「ホテル・パンアメリカーノ」の裏手の通り沿いだった記憶がある。さっそくグーグルマップを開いてその名前を入れると、歩いて30分という。
夕方5時頃。冬の終わりで太陽は照っていたが、気温12度で軽いコートでも肌寒い。それでもスマホを片手にがむしゃらに歩くとホテルに着いた。そこから裏通りのようなところを探して四方に歩くと、記憶に近い通りが出てきた。
しかし、歩いても歩いてもない。10分くらい歩いて角のタバコ屋で古本屋を聞くと、そのすぐ先だという。着いてみたが、そこは間口が狭くて2階建てで明らかに違っていた。そこの主人はインテリ顔をしてたので聞いてみると、「3ブロック先を曲がったフロリダ通りにある「アテネオ書店」だ」とたちどころに教えてくれた。
さっそく行ってみると、確かにあった。ところが、美しい木の階段があった場所にエレベーターができて、2階はDVD売り場になっており、3階は立ち入り禁止。当時の面影はあるが、本の数は10分の1くらいになっており、とても世界一美しいとは言い難い。それでも25年前の記憶をたどることができて幸せな気分になった。
ところがその書店の話をしたフランス人女性と歓迎パーティで話していたら、彼女も行ったという。「アテネオ書店だよね」と言いあって納得していたが、彼女がスマホで撮った写真は古い小さめのオペラ劇場の中に作られた書店で、全く別物だった。すると私が行ったアテネオ書店は何だったのか。25年前の夢の場所に行ってしまったのか。なぜ名前が同じなのか。
まるでブエノスアイレス生まれのボルヘスの小説の中に紛れ込んだような気分だ。そんなことを考えていたら、帰りのバスの中で熟睡してしまった。
| 固定リンク
「旅行・地域」カテゴリの記事
- 鹿児島のこと(2025.10.24)
- 山形に少しだけ:その(3)(2025.10.20)
- 新幹線と飛行機と郵便局(2025.10.18)
- 山形に少しだけ:その(2)(2025.10.16)
- 山形に少しだけ:その(1)(2025.10.14)


コメント
私も昨年「世界で最も美しい書店」と言われるアテネオ書店を探し歩きました!この建物は1920年代には無声映画などを上映していた映画館でもあったそうですが2000年に閉館。アルゼンチンでは年間10万タイトルが出版され、大型書店チェーンのエル・アテネオがこの劇場に目をつけたそうです。現在は35万冊の本を並べて観光名所にもなっているようです。
そして、25年前の夢の場所へ迷い込んでいらしたのを現実に引き戻す訳ではないのですが・・・貴方が訪れたのは恐らくアビラ書店と思われます。でも、がっかりすること勿れ。南米で最も書店の多い国アルゼンチン。その中で南米に現存する最も古い本屋さんがブエノスアイレスにあるアビラ書店なのです!1988年と様相が変わっていたのは1990年初頭に経営難に追い込まれ、一時はファストフードに買収されそうにもなったところを幼い頃から通い詰めた現在の店主が買い取り、自身の名前を付けてアビラ書店となりました。その際に4階建てから2階建てに。2010年には「文化的価値と歴史遺産の場所」として認定されたのでアビラさんは永年的に書店経営が認められたようです。
夏が去り、秋が訪れ・・・殊更、孤独を感じる季節となりました。しかし、アルゼンチンには『人が本を知れば、2度と孤独に戻ることは無い』という名言があるのを知って、今年は一足早く『読書の秋』を迎えることにしました。
投稿: Indian Hand | 2013年9月19日 (木) 22時30分