« 肩すかしの『タモリ論』 | トップページ | フランス人が見た美輪明宏 »

2013年9月 3日 (火)

本当のことを言おうか:『安倍公房とわたし』

人には、誰でも言えない秘密がある。言いたいけれども、これを言ったらおしまいよ、という類の話である。最近読んだ山口果林著『安倍公房とわたし』は、まさにそれを突然本にしてしまったもので、これには驚いた。

女優の山口果林が、文豪・安倍公房の死後20年たって、突然「私は彼の愛人でした」と言うのだからびっくりだ。山口は今年で66歳だが、それまで長い間黙っていたものを、もういいだろうと一気に吐き出した感じだ。

そのうえ、本の表紙には表も裏も彼女の若い頃のノーメークの赤茶けた写真がある。いかにもそばにいる安倍が撮った感じの、ノーメイクの日常的な表情だ。さらに開くと2人の写真が数ページ出てくるが、その中には山口がベッドに横たわる、いわゆるヘアヌード写真まである。もちろん安倍が撮ったものだろう。

文章自体は淡々と安倍との出会いに始まって、彼との生活を描く。冒頭に彼女の25年分の手帳が並んだ写真もあるが、その手帳をもとに安倍との日々を冷静に再現している感じだ。

山口が安倍と出会ったのは、桐朋学園大学演劇科学生の時で18歳。安倍はそこの先生で、23歳年上だ。それから2人の関係はおよそ25年間、安倍が1993年に亡くなるまで続く。途中から安部は妻のもとを離れて2人で住んだりもするが、そう簡単ではない。

山口はNHKの朝のドラマ『繭子ひとり』で有名になり、もともと安部は有名なので2人の関係は伏せたまま、密会が続く。そのうえ、2人ともそれぞれの仕事が忙しく、時間を見つけるのも容易ではない。後半は安部の健康状態が悪くなって癌とわかり、何度も入院する。さらに山口の母親も病気になる。

2人は結婚しようとするが、新潮社の編集者たちに「ノーベル賞を取るまではスキャンダルはいけない」と止められる。

この本の後半はその修羅場のような日々を描くので、読んでいてつらい。すごいのは、安倍がその間も『箱男』や『洪水』『密会』などの小説を次々と書いていることだ。この本のエピソードを読むと、山口との生活が確実に影響を与えていることがよくわかる。今後の安部研究にとって重要な資料になるのではないか。

「セックスの相性も良かった」などの興味深い細部が満載だが、それは読んでもらうしかない。それにしても、有名人は大変だと思った。

|

« 肩すかしの『タモリ論』 | トップページ | フランス人が見た美輪明宏 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/58118572

この記事へのトラックバック一覧です: 本当のことを言おうか:『安倍公房とわたし』:

« 肩すかしの『タモリ論』 | トップページ | フランス人が見た美輪明宏 »