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2013年9月10日 (火)

『女っ気なし』の素っ気ない魅力

11月2日に公開されるフランス映画の中編『女っ気なし』と短編『遭難者』を見た。最近のフランス映画では珍しく、素っ気ないほどシンプルだが、驚異的な才能を感じた。監督は1977年生まれのギヨーム・ブラック。

58分の『女っ気なし』(2011)は、寂れた感じの海岸の町に住む冴えない男シルヴァンが、バカンスに来た美人の母娘と出会う話だ。ほとんど何も起きないに近いけれど、風景の中に登場人物たちの小さな感情の揺れを見せる映像は、清水宏を思い出させた。

プレス資料によれば、北部のノルマンディの海辺の町オルトだというが、その佇まいがいい。地中海のような青さではなく、乳白色に輝く海と少し曇った空、そして静かな海岸。いい奴だが、おとなしくて女性に縁のないシルヴァンの性格や仕草にぴったりの風景だ。

シルヴァンが母親の手を握ったり、娘とキスをしたりするシーンでは、たっぷりと長回しで切ない心の動きを見せてくれる。あるいはディスコの後の朝方の風景や、朝起きた時の娘のうなじ、カフェのおばさんとの会話など、驚くべき繊細なショットがあちこちに散りばめられている。

チラシに書かれている通り、バカンスものという点ではジャック・ロジエを思わせるし、男女の恋愛の駆け引きを即興的に見せる点ではロメールを思わせる。しかしこの監督はロジエのように野放図な展開はしないし、ロメールのような倫理的な悟りはない。しかし場所そのものの雰囲気と人物の繊細な感情を浮かび上がらせる才能においては、この2人を上回るかしれない。

『女っ気なし』は、原題がUn monde sans femmes=「女のいない世界」なので、ほぼ直訳。シルヴァンの世界ということだろうが、魅力的な2人の女性が水着や裸体まで見せてくれるのだから、妙な題名ではある。

25分の短編『遭難者』(2009)は、パリから自転車で遊びに来てタイヤがパンクした青年リュックが、冴えない男シルヴァンに出会う話。こちらはむしろリュックの恋愛が中心だが、シルヴァンの不器用ぶりが圧倒的で、『女っ気なし』のいいプロローグとなっている。題名はロジエの『トルチュ島の遭難者たち』(1976)から来ているに違いない。

『わたしはロランス』が公開されたばかりのグザヴィエ・ドランに比べたらずいぶん地味だが、この秋のフランス映画のもう一つの驚きであることは間違いない。

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