『そして父になる』をようやく見る
最近はアート系の外国映画が不振だという話はよく聞くが、邦画に関してはその逆も起きているようだ。『凶悪』もヒットしているらしいし、『地獄でなぜ悪い』も相当の規模の公開だ。そしてその代表格が、是枝裕和監督の『そして父になる』。
昔、『誰も知らない』を試写室で見た時は、すごい映画だが、誰が見るのだろうと思ったのを覚えている。ところがその後カンヌで賞を取ってヒットした。彼の映画の多くは、最初の『幻の光』の時から海外で賞を取ってその後日本公開という形を取ってきた。
今回は5月のカンヌで審査員賞を取り、製作がフジテレビということもあってその映像が何度もテレビで流れて、完全に火が点いた感じ。スピルバーグがリメイクを決定したニュースまで流れたし。こうなると見る側もちょっと警戒してしまう。
2つの家族の子供を取り違えたことが、生まれて6年もたって発覚するという話で、映画はそれからの家族を描く。さすがに是枝監督は子供の描き方が秀逸で、とくにリリー・フランキーと真木よう子の子供たちは、まるで盗撮でもしているかのように、ほとんど演技を感じさせない。
リリーたちの一家は群馬の電気屋さんだが、一方の福山雅治と尾野真千子の家族は、都心の豪華マンションに住む。映画は福山を中心に進むが、家族の姿をその佇まいとともに写し込む撮影がすばらしい。そこにグレン・グールドの弾くバッハのゴールドベルク変奏曲が重なると、人間存在の哀しさや危うさまでが一挙に浮かび上がる。
映画の展開としては、2つの家族の対比が図式的すぎるし、福山が一番大事にしているはずの仕事の内容がほとんど描かれないし、私には単調に思えた。突然これが故意の犯罪だとわかる展開も、ちょっと尻切れトンボ。それでも全編緊張感溢れる映像からは目が離せないし、終盤、福山が息子と平行に道を歩くシーンに、思わず心が締め付けられた。
個人的には『歩いても歩いても』の方がずっと好きだ。あの人間関係の絶妙さは、今回の映画には欠けている。
映画館はいわゆる普通のお客さんが多かったが、上映後の反応も悪くなかった。みんなが語りたくなるような内容なので、大丈夫なのだろう。この映画は、才能のある日本の監督が、大きな予算で映画を撮ることができるようになる契機となるかもしれない。とりあえず、フジテレビとギャガはまた是枝監督で行くのではないか。
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