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2013年9月24日 (火)

『許されざる者』への違和感

帰国後最初に劇場で見たのは、李相日監督の『許されざる者』。見る前から、いい作品であることはわかっていた。あの聡明な李監督がイーストウッドの傑作を翻案する以上、いい加減なものを作ることはありえない。

実際、おもしろかった。見終わると情念の渦のようなものが、どしりと襲ってきた。けれども、見ながらどこかに違和感を感じていたのも事実だ。

その違和感は『東京家族』を見ながら感じたものとは、違う。あれは『東京物語』をそのままなぞりながら現代に置き換えて、山田流の人情を加えたものだった。今回のリメイクは、「換骨奪胎」という言葉がぴったりなくらい、基本的な人物設定を借りて、全く別物に仕上げた感じだ。

まず、この映画の奥に流れるどす黒い怨念のようなものが違う。それはアイヌの怒りであり、官軍に追われた幕府軍の兵士たちの恨みなのだが、それを渡辺謙を始めとして数名が体現する。それは、最後に権力者大石を古びた刀で無理やり刺す十兵衛=渡辺の姿につながってゆく。

冒頭の殺し合いから、映画は残酷さに満ちている。國村隼演じる北大路をあそこまで痛々しく描く必要があったのか。十兵衛が頬を傷つけられるシーンも、見ていてたまらない。イーストウッドの映画にあったカタルシスが引っ込んで、肉体の暴力が前面に出る。いつになったら十兵衛がこの状況を打開してくれるのかと、見ていて我慢大会みたいになった。

北海道の荒野とその中に建てられた家、室内など美術も撮影も文句ない。たぶん最近の日本映画でもっとも豊かさを感じさせる画面の厚みがある。そして渡辺謙、柄本明、佐藤浩市の3人がピッタリだ。とりわけ柄本がにゅっと現れて、渡辺を誘いに来る瞬間なんかぞくぞくした。

そこに流れるつややかな音楽。これがどうも過剰な感じがして、全体が妙にベタに見えてきた。そのせいもあって、全体を流れる大作感になぜか違和感を感じてしまった。『69 sixtynine』の頃の軽快さが懐かしい。李監督は、このまま妙な具合に「巨匠」になって欲しくない。

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コメント

李監督力入りすぎ。そんなにしつこく描かなくってもいいって!観てる方が疲れてしまう。
「69」「フラガール」「悪人」今までは結構好きだったのにな~。

投稿: sona | 2013年9月25日 (水) 22時31分

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1992年クリント・イーストウッド監督・主演の西部劇(アカデミー賞作品賞受賞)のリメイク。 まず特筆すべきは、北海道でのオールロケ。 これがとても美しく、映画の醍醐味のひとつを十二分に楽しんだ。 (写真:物語の中心となるセット) そして渡辺 謙。 ハリウッ...... [続きを読む]

受信: 2013年9月26日 (木) 19時34分

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