« 『許されざる者』への違和感 | トップページ | 2キロ太った理由 »

2013年9月25日 (水)

本当のことを言おうか:『老兵は死なず 野中広務回顧録』

政治家の回顧録が好きだというと、保守的なおじ(い)さんみたいに見えるかもしれない。実はこれがおもしろい。政治家はマスコミに出るが、芸能人と違ってある振り付けがされているわけではない。マスコミが架空のイメージを広める。

だから野中広務のような政治家は、私には自民党の保守勢力の象徴のように見えた。この人に対する印象が変わったのは、辛淑玉との対談集『差別と日本人』を読んでから。何と優しく、勇気溢れる人かと思った。

野中広務と言えば、反小沢であり、とりわけ反小泉であった。主要な大臣にならず、内閣官房長官や自民党幹事長などで名を馳せ、党内派というか、裏で暗躍する古いタイプの政治家のイメージだ。それはもちろんある時期は小沢を、ある時期は小泉を改革の旗手として持ち上げたマスコミが作りあげたものだ。

そんな彼が、2003年に政治を離れて、「本当のことを言おうか」と90年代以降の政治について語りだすのだから、おもしろくないはずがない。

この本の「はじめに」の中で、引退した理由をこう書いている。「都市部に住み、年収が1000万円以上ある人間が、マスコミでも政府の審議会でも集まって、地方の血脈ともいえる道路、あるいは特定郵便局といったインフラを、「構造改革」の美名のもとに、次から次へと破壊しようとするこの大きな流れに、抗っても抗っても押し流され、このままでは政治家としての責任をまっとうできないと思った」

彼が言いたいことはほとんどこの文章に集約される。もちろんこれは小泉改革を批判した言葉だが、何となく私個人の生き方も批判されているような気がした。都会である程度豊かに暮らし、地方のことを全く考えない毎日。私はマスコミにも籍を置いていたし。

この本には、その場にいた人しか知らない、何ともリアルな細部に満ちている。例えば98年の参院選で大敗して橋本総理が退陣し、次期総裁を決める時。小渕に全体が固まっていた時、梶山静六が突如立候補を言いだし、流れが変わる。

「『だめだっ。小渕恵三、あの激しい福田、中曽根の谷間で対抗してきて、政治家を目指して三十何年、ここで下がるんなら政治家をやめるっ。下がらないっ』と言い切ったのだ。/その激しい気迫に、私たちは息を飲んだ」

こんな細部があちこちにあるが、あとは読んでもらうしかない。読めばこの人に対する印象は確実に変わる。

|

« 『許されざる者』への違和感 | トップページ | 2キロ太った理由 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/537538/58261757

この記事へのトラックバック一覧です: 本当のことを言おうか:『老兵は死なず 野中広務回顧録』:

« 『許されざる者』への違和感 | トップページ | 2キロ太った理由 »