エドワード・モースが集めた明治時代の日用品
あまり期待せずに見に行った「明治のこころ モースが見た庶民のくらし」展に深く心を動かされた。江戸東京博物館で12月8日まで開催中の展覧会だが、チラシにあった明治の日用品の数々が妙に気になった。
展示品は、ピーボディー・エセックス博物館とボストン美術館から借りてきたもので、ほとんどがモース本人が明治時代に持ち帰った品々だ。
モースと言えば、大森貝塚の発見者として有名だ。だからこの展覧会を見るまでは、当時の日本の日常用品をこれほど収集していた人だとは知らなかった。その量と質は、日本のどの博物館にもないほど豊かだ。
例えば櫛や簪の数々や髪結い道具。髪結い道具は、山中貞雄監督の映画『人情紙風船』(1937)で、中村翫右衛門演じる髪結新三が持っているものと同じ。
眼鏡や眼鏡入れ、煙草入れ、印籠、のデザインの美しさといったら。そして釜や飯櫃、茶漉し、まな板、椀、盆、膳といった台所用品の豊富さ。食べ物まで保存されていて、山形屋の缶入りのノリが赤茶けて展示されている。あるいは鰹節やイナゴの佃煮、金平糖まで当時の実物がある。
その数は300点を越す。さらに200点近いモースのスケッチがあり、モースが集めた写真がいたるところに拡大して展示してある。その横にモースの著作から引用された言葉が大きく書かれている。
「世界中で日本ほど、子供が親切に取扱われ、そして子供の為に深い注意が払われる国はない。ニコニコしている所から判断すると、子供たちは朝から晩まで幸福であるらしい」
「商品の並んだ町を歩くことは、それ自身が、楽しみの無限の源泉である」
「たいていの人は、粗末な木製のはき物をはいているが、これがまた固い道路の上で、不思議な、よく響く音をたてる」
先日、サントリー美術館の酒器の展覧会で江戸時代の酒器の繊細さに驚いたが、この展覧会を見ると明治になっても日常の美意識は生き続けていたように思える。それがなくなったのは、ひょっとすると、1964年の東京オリンピックあたりではないだろうか。
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