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2013年10月 5日 (土)

やはりジャームッシュは退屈でカッコいい

12月公開のジム・ジャームッシュの新作『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』を見た。舌を噛みそうな邦題だが、彼の映画は『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84)の昔から、いつも英語をそのままカタカナ読みしてきた。

それくらい、題名もシンプルでカッコよかった。『ナイト・オン・ザ・プラネット』(91)とか『ブロークン・フラワーズ』(05)とか。今回は長すぎるけど。

映画そのものに関しては、個人的には『ダウン・バイ・ロー』(86)まではゾクゾクしたが、それ以降はいつも退屈しながら「カッコいいなあ」と思ってきた。自分はロックは全くわからないし、そのうえアメリカはめったに行かないのでくわしくない。彼の映画は遠い、手の届かない存在だった。

今度も抜群にカッコいい。何といってもイヴ役のティルダ・スワントンがモロッコのガウンを着て横たわる姿を俯瞰で捉えたショットに、度肝を抜かれる。彼女はモロッコのタンジールに住んでいるが、デトロイトに住む恋人のミュージシャン、アダム(トム・ヒドルストン)に電話をして会いにゆく。

実は二人とも吸血鬼だということがだんだんわかってくる。彼らの仲間はタンジールに住むマーロウ(ジョン・ハート)とイヴの妹の(ミア・ワシコウスカ)。この4人の吸血鬼が何ともいい味を出していて、見ているだけで嬉しくなる。

映画はスノッブな引用でいっぱいだ。最初はアダムの持つ年代物のギターの名前が次々と現れるし、彼は自らを「ファウスト博士」と名乗ったり、「異常な愛情博士」と言ったり。フィナボッチとかステラとか歴史上の変人たちの名前が飛び交う。あるいは死者たちの写真が無数に並ぶシーンがあるが、なかにはカフカやバルザックもある。

そのほか私の知らない名前が無限に飛び交い、デトロイトの夜の町を2人はドライブする。いかにも破綻した街の風情がいい。巨大なミシガン劇場は、現在は駐車場。そして最後に2人はタンジールに行き、汚染された血を飲んだマーロウの最期に立ち会う。レバノン人女性歌手ヤスミンの歌は、官能的で美しい。

たぶん、監督自身が物事を知り過ぎて、何百年も生きた吸血鬼のような気分なのだろう。見ている自分まで吸血鬼になったような気がした。汚染された血を飲むというのが、エイズのことのようでもあり、放射能のようでもあった。

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