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2013年10月 2日 (水)

『ホテルローヤル』の描くラブホテル

私はラブホテルに行ったことがない。というのは嘘で、30年くらい前に一度だけ福岡で行ったことがある。それはいかにもラブホテルという感じのキラキラした建物で、部屋の中は派手だが貧相だった。今でも映画を見に渋谷「ユーロスペース」や同じ建物の「シネマヴェーラ」に行くと、周りのラブホテルを見ながら、当時のことを思い出す。

昔話はさておき、今年の直木賞を受賞した桜木柴乃著『ホテルローヤル』は、ラブホテルを舞台にしたものだというので、買ってみた。オビには「湿原を背に立つ北国のラブホテル。「非日常」を求めて、男と女は扉をひらく」。月並みでいいじゃないですか。

連作の形を取っていて、7本の短編が並ぶ。最初は廃墟となった「ホテルローヤル」に女を写真撮影に誘う男の話で、そんなものかと読んでいたら、2話、3話と続くうちに、生ぬるい地方の匂いが漂ってくる。住職の妻が、檀家からお布施をもらうために体を売る話「本日開店」なんて、いかにもありそうで怖い。

そしてこの連作が「ホテルローヤル」を舞台にして、時間をさかのぼってゆく話だと気づくのは、真ん中あたりだろうか。父が作ったラブホテルを閉じる29歳の女を描く「えっち屋」や、そのホテルで働く清掃係の話「星を見ていた」、そして最後の「ギフト」は妻と別れて愛人とラブホテルを作るのに踏み出す男の話。

最後の「ギフト」がいい話なので、思わず初めに戻って読み返す。そうすると細部のあちこちがつながっているのに気づく。それぞれのエピソードの語りがうまいだけでなく、全体として計算しつくされた小説だ。

話はまた戻るが、「ユーロスペース」に行く時に、ラブホテルから出てくる男女を見ているとおもしろい。幸福そのものの2人から、深刻な顔をした2人だったり、男は能天気で女は泣きそうな顔だったり。よくあるのは、男がなんとかして女をラブホテルに連れ込もうとしている場面。

それにしてもラブホテルをめぐる本を読んだり、ラブホテルの客を観察しているようでは、もはや老年の域かもしれない。

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コメント

いつも映画の記事、楽しく拝読しています。
「ホテル・ローヤル」を私も先日読みました。桜木紫乃さんは新しく小説を書くたびに上手くなってゆきますね。今後が楽しみです。
ところで、渋谷の「シネマライズ」という映画館をご存知と思います。あそこは以前は有名なラブホテルでした。しかし、渋谷の発展につれ周りが段々と繁華街になってゆき、ラブホテルの経営に適さなくなってしまいました。そこで、経営者のライさんは思い立ち、映画館に模様替えしました。ライさんの商才のあるところです。
その当時のラブホテルは、入口はひっそりというのが常識でした。今は大分違ってきたようで、利用者は周りなんて気にしないようです。

投稿: 総合系釣り師ナベ | 2013年10月 2日 (水) 13時46分

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