六本木の美術展2つ
東京国際映画祭の空いた時間を使って、展覧会を2つ見た。1つは森美術館の「六本木クロッシング2013」展、もう1つはサントリー美術館の「酒器のある情景」展。まさに対照的な内容だった。
1月13日まで開催の「六本木クロッシング」展は、【アウト・オブ・ダウト】と銘打たれ、チラシには「日本現代美術の今を問う」と書かれている。30人(あるいは組)近い現代作家の作品を集めたものだ。
これを見て、もう自分は現代美術にはついていけなくなったと思った。昔は現代美術を海外に送り出す仕事をしていたし、その後も常に日本の現代美術は見続けていた。ところが、今回の展覧会には自分の心に響くものがほとんどなかった。
そこにあるのは、混乱の集積だ。写真も、映像もインスタレーションも、福島原発問題後の日本はこうであるといいたげに、無秩序をそのまま見せる。それらを見ながら、自分はたぶん美術にどこか美的な完成度の高さを求めていたのだと気づく。
そうした美しさは、小林史子の椅子と衣服を積み重ねたインスタレーションや、笹本晃の部屋の中で傾いたテーブルや椅子を組み合わせた展示に感じることはできたが、全体としては少数派だ。あるいは、ベテランの菅木志雄や柳幸典にはもちろんある種の美学が備わっていたが。
11月10日まで開催のサントリー美術館の「酒器のある風景」は逆に、すべてが美し過ぎる。紀元前のエジプトやペルシャのグラスに始まって、ボヘミア、ドイツ、ベネチアと凝りに凝ったグラスが並ぶ。個人的には、16世紀ベネチアのレースガラスのゴブレット(石川県立美術館蔵)に心を奪われた。
そして江戸時代以降の日本のグラスの繊細なことといったら。真っ青な酒器セットや練上徳利、薩摩切子など見ていると、明治初期までの酒器の完成度はたぶん世界一なのではないかと思う。こんな酒器で酒を飲んだら、いい気分になりそうだと思いながら見た。出口のショップで思わずお猪口を買いそうになったくらい。
今の自分には現代美術よりも、江戸時代の徳利やお猪口のほうが、しっくりくるようだ。
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