タナダユキ監督の新作に少しがっかり
始まったばかりのタナダユキ監督の『四十九日のレシピ』を見た。去年、『ふがいない僕は空を見た』に打ちのめされたので、新作を見たいと思ったからだ。結果は、おもしろかったが、ちょっとがっかりした。
物語は、妻を亡くして呆然とする男にもとに、夫の浮気を知った娘が帰ってきて、一緒に四十九日を迎えるというもの。父親役の石橋蓮司が抜群にいい。最近はコミカルでカリカチュアのような脇役が多いが、今回のように正面からじっくり見せると、実にいい演技をする。
これまですべてを妻に頼って生きてきた70前後の男が、妻を亡くすとどうなるかというのをこれほどつぶさに描いた映画はめったにない。もちろん娘役の永作博美もうまい。まっとうに生きてきたはずなのに、いつの間にか不幸を抱え込む女性像にぴったり。突然現れて、四十九日を手伝うイモ役の二階堂ふみも悪くない。
ところが、これまた突然現れる日系人ハル役の岡田将生は無理があるし(全く日系人に見えない)、石橋の姉役の淡路恵子は悪役過ぎるし、終盤の展開はありえない。あるいは夫の浮気相手もあまりに悪役過ぎる。
さらに石橋が若い頃に妻と再婚するエピソードの映像が、どこか現在と結びつかない。石橋の日常をあれほどリアルに描いているのに比べると、過去の映像が作りものに見えてくる。
川のそばにある石橋の家の雰囲気は実に細やかに描かれているし、終盤に細い三日月が写ったり、芸も細かい。何より、石橋と永作が二階堂の闖入によって変化してゆく様子の描き方がうまい。
明らかに淡路らの人物設定に無理があるし、そもそもこのようなメロドラマ仕立ての内容が、現在をアナーキーに描くタナダ監督の資質と合っていなかったように思えてならない。
見たのは有楽町のスバル座だったが、珍しく全席自由。席を取って外に出ようとしたら、ダメだと言われた。チケットをよく見ると日付しか書いていない。回の指定もない昔の方式だ。そのうえ場内アナウンスはたぶん昭和40年代に録音したもの。「ごゆるりとお楽しみください」とは今は言わない。あれやこれやで映画の印象も悪くなったのかもしれない。
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