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2013年11月27日 (水)

そして東京フィルメックスは続く:その(2)

『アナ・アラビア』、『カラオケ・ガール』、『若さ』と見ていてつらくなる作品の後に、ようやく「普通」の映画を見た。シンガポールのアンソニー・チャン監督の長編デビュー作『ILOILO』。

シンガポールの共働きの家庭で、フィリピンのメイドを雇うところから映画は始まる。母親は身重で小学生の息子ジャールーは学校でいたずらばかりして、最初はメイドのテリーにもなじめない。映画はジャールーがだんだんとテリーに心を許してゆく過程を鮮烈に描く。

最初は両親がずいぶんひどい人々に見えるが、運送会社で働く母親の苦労もだんだん見えてくるし、営業の仕事をクビになり、警備員をやる父親も、意外に優しい面があることがわかってくる。テリーはフィリピンに生まれて一年の子供を残してきており、面倒を見る妹に金を送るために、休みの日は美容院で働く。

そんなそれぞれの事情が、時おり垣間見えるような演出がうまい。物事が解決しないうちに説明なしに時間が飛んだりするテンポもいい。少し引いた距離から、人々の表情の一瞬の変化を捉えるカメラも秀逸。そして何より感情をすぐに行動で表わす無口な少年ジャールーが、映画全体を引っ張ってゆく。監督は今年29歳だが、すぐメジャーになりそう。

ほかの映画についても触れておきたい。タイのウィッサラー・ウィチットワータカーン監督の『カラオケ・ガール』も長編デビュー作。バンコクのナイトクラブで働く、地方出身の娘サーを追いかけたドキュメンタリータッチの作品だった。

彼女が田舎に帰った時の表情が、一瞬にして全く異なるのがいい。緑の中で、子供や親戚たちに囲まれて楽しそう。それと対照的に描かれるのがバンコックのナイトクラブだが、その対比がいささか図式的かもしれない。スローモーションの多用なども、むしろ凡庸さを露呈している。

イスラエルの『若さ』もまた、トム・ショバル監督の長編第一作。こちらは少女を誘拐して監禁し、身代金を要求する兄弟の話だが、見ていてつらくなる。映像はシャープでサスペンス仕立てだが、兄弟があまりに自分勝手で少女が痛々しい。最後の解決の付け方も含めて、何のためにこの映画を撮ったのかと思った。東京フィルメックスには、こんな我慢大会のような映画が時おりある。

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