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2013年11月25日 (月)

『ペコロスの母に会いに行く』に泣く

たぶん、今年一番泣いた映画かもしれない。今年85歳の森崎東監督の『ペコロスの母に会いに行く』のことだ。実は試写状を見た時、岩松了のかつらのハゲ頭がわざとらしく見えて嫌な感じがしたが、新聞各紙で絶賛しているたので、あわてて映画館で観た。

映画は、長崎の広告会社に勤めながら、ライブをやったり漫画を描いたりしているハゲの中年男が、ボケてゆく母親と暮らしてゆく日々を描く。

極めて現代的な内容だし、私の母や義母もボケ始めているので、いちいちよくわかる。それ以上にすばらしいのは、母親の回想シーンが実に丁寧に撮影されていることだ。少女時代や結婚した頃などがリアルなセットで再現されている。とりわけ子供を負ぶって花街を歩いていた母が、偶然幼馴染に再会した瞬間などは、ぞくぞくした。

現在の母を演じる赤木春江のボケ具合が自然でうまい。さらに母の結婚当時を演じる原田貴和子も、彼女が出会う幼馴染の原田知世もぴったりだ。夫の若い頃を演じる加瀬亮もはまっている。敢えて言えば、老人ホームで出会う竹中直人の過剰な演技はいらなかったかもしれない。

その竹中も含めて、いわゆる松竹大船調の人情喜劇だ。たぶん山田洋次の『東京家族』よりもずっと正統的な大船調のような気がする。本来ならばユーロスペースなどではなく、松竹系のチェーンで見せるような映画だろう。

ボケると現在の日常と過去の記憶が混じってくるのは、自分の母を見ていてもわかるが、これが映画的な回想シーンと実にぴったりと合うことに気がついた。普通の映画で回想が多いと、映画のテンポが失われて興醒めなことが多い。ところがこの映画では、まさに老人の視点で自然に入ってゆける。

夜中に駐車場で母親が息子を待っているシーンに泣き、老人ホームで息子の顔が見分けられなくなった時に泣き、ラストで母親が橋の上で見た幻想のシーンにまた泣いた。たぶん演出と演技が、現代という時代に自然にかみ合っていた結果だろう。今年必見の映画。

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