『グーグル、アップルに負けない著作権法』を読みながら
大学で映画ビジネスの話をしていると、著作権は避けて通れない。だから著作権関連の本は時々無理して読む。出版と映画の両方で活躍する角川歴彦氏の『グーグル、アップルに負けない著作権法』を手に取ったのも、そんな理由から。
一番興味深かったのは、「はじめに」にある次の言葉。「著作権法上、事業者に与えられている著作権の強さは映画、ゲーム、放送、音楽、出版の順に大きい。最強の映画界と最低の出版界、それは雲泥の差という言い方がぴったりだ。両業界に身を置く私のいうことだから、これは間違いない」
これは簡単に言うと、出版の場合、すべての著作権は作家にあるが、映画の場合は監督になくプロデューサーにあるということ。確かに私もある映画祭カタログの原稿を評論家に依頼したら、それを評論家が後に本にする時に、何の許諾も求められなかったことがある。
こちらが内容を提案し、原稿料を払って出版のリスクを取って原稿を載せたのだから、何か権利がありそうだが、弁護士に聞いてみたらないと言う。通常は、「礼儀」として知らせて来たり、できた本が送られてくる場合が多いけれど。
監督の場合、監督に著作権はなく、あるのは著作者人格権。これは監督名を明示させ、内容を改変させない類の権利。角川氏はこの本では、著作者人格権はクラウド時代に逆行すると否定的だ。
別に著作者隣接権というのがある。これは実演家、レコード制作者、放送事業者に与えられている。映画でも俳優はこの権利を持つ。ところが出版社はこの権利を持たない。角川氏のこの本の主張は、電子図書時代にこそ出版社にこの権利を与えよというもの。
これまで出版社には、編集、印刷、配本というモノとしての本のプロデューサーとして収益があった。ところがモノがなくなり、電子書籍になると、すべて作家とプロバイダーに持って行かれる可能性がある。
つまりグーグルやアップルやアマゾン、マイクロソフト(この本によればアメリカでは「ギャング4」と呼ばれるらしい)が、直接作家と結びつくのでは出版社の利益はなくなるから、電子書籍といえども編集者を介在させて、その権利を守れというところか。
結局は自分の会社が生き残るための主張のようでもあるが、それ以外にも「フェアユース」の考えなどいろいろ参考になる。
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